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性別変更の手術要件撤廃求め当事者らが記者会見

神原里佳・ライター|2023年10月6日6:23PM

 戸籍上の性別を変更するには、生殖機能を失わせるなど性別適合手術を受けることが性同一性障害特例法上の要件になっている。性別変更にあたり「手術要件」がない、または撤廃した国・地域は40以上で、日本の同規定は国連機関などから「人権侵害」として手術要件撤廃の勧告を受けている。

東京・霞が関の厚生労働省で会見する当事者や支援者ら。(提供/LGBT法連合会)

 現在、この要件規定が憲法違反かどうかが最高裁で審理されており、9月27日には初の弁論が開かれた。その前日の26日、性的マイノリティ当事者や支援者らで構成する「LGBT法連合会」が記者会見を実施。トランスジェンダー当事者らが、特例法における手術要件の撤廃を訴えた。

 LGBT法連合会顧問の野宮亜紀氏は「日本では性別適合手術を受けられる医療機関が少なく、多大な時間と費用がかかる。海外で手術する当事者も多いが、安全性や予後について問題が生じるケースもある。手術を受けるのは簡単な話ではない」と指摘。「手術を受けるかどうかは自己決定に任されるべきで、法的な要請に左右されるものではない」と強調した。

 乳房切除はしたが、子宮と卵巣は残す選択をした杉山文野さん(42歳)は、戸籍上は女性のため、パートナーや2人の子どもと法的関係性をもてない。「家族」になるため、養子縁組をして子どもたちの「養母」とならざるを得なかった。「実生活と書類上の表記がちぐはぐになっていることで多くの生きづらさを生み出している。法改正されれば、当事者も周囲の人も暮らしやすくなる」と話す。

「手術するか、死ぬか」

 木本奏太さん(31歳)は25歳の時にタイで性別適合手術を受け、戸籍上の性別を男性に変更。「18歳の頃、性別を変更するには体にメスを入れ、子どもを残せないようにすることが条件と知り、絶望した。身体に対する違和感は日に日に大きくなるが、手術は金銭的・身体的負担が大きすぎる。手術をするか、死ぬかという2択しか残されていなかった」と話す。昼夜を問わず働き、200万円を貯めて手術をし、裁判所から性別変更の通知を受け取ったが心境は複雑だった。代償が大きすぎると感じたという。

 木本さんは手術を受けた人と受けない人で分断が生まれていることも危惧。実際、前出の杉山さんは、SNSなどで「戸籍変更しないで家族をもちたいというのは自分勝手」「わがまま」などといった批判も受けるという。木本さんは「僕は健康で働けたから200万円を貯めて手術ができたが、手術する人、しない人それぞれに事情がある。それなのに手術要件によって分断が生まれている。同要件は性と生殖に関しての国の不当な介入」だと強く批判した。

 群馬大学情報学部准教授の高井ゆと里氏は「トランスジェンダーの人たちが自分自身の性別を生きるという当たり前のことに、手術要件という交換条件があってはならない」とし、かつて日本で障害のある人などに不妊手術を強制する「旧優生保護法」があったことにも言及。「子どもを産んでいい人、いけない人を国が線引きして管理するということを多くの国がやってきた。今も日本には堕胎罪があり、これも生殖の自立を侵害するもの。手術要件の撤廃要求は、生殖の権利を侵害されている多くの人たちとともにある闘い」だと力を込めた。

 手術なしで性別変更が可能になると、女子トイレに侵入するなど悪用する人が出てくるなどという論がネット上などで見られるが、野宮氏は「『社会が混乱する』などの言説は特例法の制定以前から繰り返されているが、あいまいなイメージに基づくものでしかない。特例法に起因するような混乱は実際には生じていない」と否定。実際、性被害に遭っているのはトランスジェンダーのほうだ。高井氏は「想像してみてほしい。もし自分が本来の性と違う身分証をもって生活してみたら。どれだけ困るかわかると思う。就職も結婚もどれだけ困難か。その状態に置かれているのがトランスの人たち。犯罪が増えるなどと言うのは、この困難が想像できないからではないか」と訴えた。

 海外から「時代遅れ」との批判も強い日本の手術要件。憲法に違反するかどうか、最高裁の判断は年内に出されると見られている。

(『週刊金曜日』2023年10月6日号)

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