日本は「死の商人」国家へ?
殺傷武器の輸出に反対で市民集会
竪場勝司・ライター|2023年10月13日2:29PM
岸田文雄政権が進めようとしている、殺傷能力のある武器の輸出に反対する市民集会が10月1日、東京都の文京区民センターで開かれた。「平和国家」から「死の商人の国家」に堕落していいのかと問う講演やスピーチがあり、110人が参加した。
武器輸出のルールを定めた政府「防衛装備移転3原則」は、その運用指針において殺傷能力のある武器は日本と共同開発・生産した相手国への輸出はできるが第三国への直接輸出は禁止としている。政府は2022年末に閣議決定した安保関連3文書で「防衛装備移転の推進」を掲げ、運用指針の見直しに向け、今年4月から自民・公明の議員12人で構成する与党の実務者協議で検討を進めてきた。
実務者協議は7月にまとめた中間報告書で「第三国にも直接移転できる方向で議論すべきだとの意見が大宗(大部分)を占めた」とした。政府は8月23日、これまでも輸出を認めている「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型の範囲内で、こうした活動や正当防衛に必要なものであれば、殺傷能力のある武器を輸出することは可能、との見解を示した。同時に、イギリス、イタリアと共同開発する次期戦闘機を念頭に、第三国への輸出を容認する考えも示した。
集会は複数の反戦・平和団体で構成する「STOP大軍拡アクション」が主催した。まず学習院大学教授の青井未帆さんが「殺傷武器の輸出と憲法の平和主義」のテーマで講演。殺傷武器の輸出解禁をめぐる与党の実務者協議などの最近の動きにふれ「国会での議論がスキップされたまま、国柄を変えるような政策転換をしようとしている。これが最大の問題点だ」と厳しく指摘した。
青井さんは日本国内でのベトナム反戦運動の盛り上がりなどを背景に国会論戦の中で武器の輸出を禁止する「武器輸出3原則」が生まれたこと、その要件が後に国会での議論を経ずに官房長官談話などの形で緩和され、14年の「防衛装備移転3原則」に繋がったという変遷を紹介。「武器輸出3原則は平和国家なのに日本の武器で人が死んでいいのかという、非常にまっとうな国民の感覚を基にしていた」と評価し「まっとうな感覚で憲法9条を具体化し、殺傷武器輸出の動きに疑問を呈し続けることの重要さが今まさに問われている」と訴えて講演を締めくくった。
武器開発即ち戦争犯罪だ
続いて登壇した日本国際ボランティアセンター(JVC)の今井高樹さんは、平和国家として日本政府も認めてきた「非軍事的国際協力」の原則が踏みにじられようとしている現状に言及。武器供与を想定している、途上国援助の新たな枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」に「平和国家としての信頼が失われる。強く反対する」と述べた。
東芝の技術者だった海老根弘光さんは、軍需産業の現場について「仕事に従事している人は、飲み屋でも家でも仕事に関連する話はしてはいけないことになっているほか、家族全員の経歴調査書を防衛省に提出する。身辺調査も行なわれ、思想信条や組合活動歴などが調べられ、不適格と判断されれば、生産の現場から排除される」と生々しい実態を語った。
武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司さんは日本と英国、イタリアが共同開発しようとしている次期戦闘機の第三国への輸出問題に言及。「英国とイタリアは前の戦闘機、ユーロファイターを共同開発した。これが72機もサウジアラビアに輸出されてイエメンの内戦に介入し、無差別空爆をやった」として、同機が学校や病院などにもミサイルを撃ち込み、バスに乗っていた40人の子どもがすべて虐殺されるような事件さえ起こしたことを報告。「今後日本が組んで開発された暁にはサウジアラビアなどにイギリスとイタリアがその戦闘機を輸出する。同じような戦争犯罪を引き起こすことは間違いない」と指摘し、「共同開発自体が戦争犯罪を引き起こすものであり、それに私たちの税金を使うな、としっかり言っていくことが必要だ」と強調した。
(『週刊金曜日』2023年10月13日号)