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生活保護利用者に郊外のアパートに入居させる「新たな貧困ビジネス」とは
宇都宮 健児|2023年10月13日11:58AM
コロナ禍に加えて最近の物価高で生活に困窮する人が増え続けている。このような状況下で、現在、住まいの確保や就労支援をうたい文句にして生活困窮者を勧誘し、生活保護を利用させて都心から離れた郊外のアパートに入居させ、空室を埋めて満室にした上で、アパートを転売して利益を上げる「新たな貧困ビジネス」が広がり、問題となっている。
2021年頃から首都圏の生活困窮者支援団体には、都心から離れたアパートなので仕事探しが困難である、期待していた就労支援が受けられない、他の入居者より高い家賃や管理費を支払わされている、運転免許証やマイナンバーカード、印鑑、通帳、キャッシュカードなどを取り上げられ困っている、といった新たな貧困ビジネスによる被害相談が多数寄せられるようになっている。このような新たな貧困ビジネスに対処するため、弁護士や支援団体関係者で「住宅穴埋め屋対策会議」が結成された。
新たな貧困ビジネスが広がる背景の一つには、福祉事務所のケースワーカーの人手不足問題がある。ケースワーカーは生活保護費の支給に関する事務や生活保護利用者に対する就労指導など自立支援の役割を担っている。社会福祉法16条では、ケースワーカーの標準数が、市町村の設置する福祉事務所で生活保護世帯80世帯当たり1人、都道府県の設置する郡部の福祉事務所で65世帯当たり1人と定められている。
しかしながらケースワーカーの人手不足が解消されていないため、多くの市町村ではケースワーカー1人で100世帯以上を担当していることも珍しくない。このため、ケースワーカーによる生活保護利用者が居住している住まいのチェックや十分な就労指導が行なわれていないのである。
貧困ビジネスが広がるもう一つの背景には、わが国社会の「住まいの貧困」がある。生活困窮者が利用できる低家賃の公営住宅が少なく、災害時などを除き、平常時に利用できる自治体による恒常的な借り上げ住宅制度や家賃補助制度が存在しないことが、このような貧困ビジネスが横行する大きな要因となっている。
国や自治体は、生活困窮者を食い物にする新たな貧困ビジネスに対する監視体制を強化するとともに、福祉事務所におけるケースワーカーの人手不足の解消、「住まいの貧困」対策に力を入れるべきだ。
(『週刊金曜日』2023年10月13日号)