瀬戸内法50年でシンポジウム開催
生物多様性の観点から提言へ
平野次郎・フリーライター|2023年10月16日7:35PM
瀬戸内海沿岸の環境保護団体でつくる環瀬戸内海会議が瀬戸内法(瀬戸内海環境保全特別措置法)制定50年を記念したシンポジウム「瀬戸内海の50年をふり返り、これからを考える」を10月1日、神戸市内で開いた。7月の香川県・豊島でのシンポジウム(本誌9月1日号参照)に続くもので、沿岸の漁業協同組合へのアンケートなどの調査結果を公表し、環境保全についての提言案をまとめた。
まず林崎漁協(兵庫県明石市)の元職員で水産大学校元理事長の鷲尾圭司さんが「水産の立場から瀬戸内海の現在と未来を考える」の題で基調講演。最初に1965年から50年間の瀬戸内海の漁業生産量(魚類、貝類、海藻類などの合計)の推移を示す棒グラフをスクリーンに投映した。総漁獲量は85年ごろの約85万トンをピークに減り続け、近年は30万トン近くまで落ちている。鷲尾さんが注目するのは、グラフの年代が後半になるとアサリなど貝類の漁獲量が棒グラフの表示から消えていることだ。海水の富栄養化が進み、海底にたまったヘドロが分解するのに大量の酸素を消費するため貧酸素状態となり、貝類など海底生物が棲めなくなる。水質規制により海はきれいになったが、海底でどんなことが起きているかがわかりにくく、環境保全を考えるうえで大きな要素になると指摘する。
次に、海の食物連鎖の「生態ピラミッド」の図を投映。三角形の土台部分が植物プランクトンや海藻など生物の栄養源となる「生産者」、その上部が動物プランクトンや小魚などの「1次消費者」、その上が中型魚の「2次消費者」、最上部が大型魚の「3次消費者」となる。上部へいくほど個体数は約10分の1ずつに減少するが、栄養分は濃縮される。そのピラミッドが貧栄養化によって土台が崩れ始め、小さくなるにつれて上の部分も小さくなり、最上部の大型魚が減少する。それに伴い大発生するようになったのがクラゲ。鷲尾さんが90年代後半に海に潜るとクラゲだらけで、海から上がると体中にクラゲが付着していたという。
上関原発施設にも言及
基調講演後、漁民の声を聞くために沿岸の117漁協から回答を得たアンケートと66漁協から聞き取り調査した結果をまとめた『瀬戸内海の水産・海洋生物と環境の変化に関する調査報告書』の報告があった。アンケートでは18種類の魚種ごとに2010年と比較した現在の漁獲量を聞いたところ、タチウオ、イカナゴ、カレイ、タコなどほぼすべての魚種が減少。原因について貧栄養化や温暖化のほかダムや護岸などの人工物、農薬や洗剤などの有害物質、原発からの温排水などの指摘があった。
そこで多くの漁協が問題視したのがクラゲの大発生。クラゲが大量の動物性プランクトンを餌にするので低次生態系の小魚などと競合することになり、前記ピラミッドへの影響が懸念されるからだ。クラゲについては海水温の上昇で冬を越せるようになったことや、台風などで砂浜に打ち上げられて死んでいたのが垂直護岸が増えて生き延びるようになったなど、海の環境異変によるものだとする意見が聞かれた。
パネル討論では環瀬戸内海会議の湯浅一郎共同代表が「未来への提言」(案)を説明し、意見が交わされた。提言は①物質循環を断絶させる人工構造物は必要最小限にし、陸・川・海の境界をできるだけ物質循環を断絶させない構造にしていく、②有機物汚染以外の汚染リスク要因の規制強化と除去、③「生物多様性国家戦略」及び「生物多様性地域戦略」の思想を環境施策に盛り込む、の3点。特に③では環境省の「生物多様性の観点から重要度の高い海域」の一つ「長島・祝島周辺」(山口県上関町)への使用済み核燃料中間貯蔵施設の建設計画が持ち上がったことを懸念。現地の反対運動についての特別報告があった。
討論では「海がきれいになったと言うが『豊かな海』とは何なのか、具体的イメージをつくりあげて実現していく必要がある」との意見が出され、未来への提言に新たに盛り込むことになった。
(『週刊金曜日』2023年10月13日号)