横須賀で米兵に性暴力を受けた豪女性、日米地位協定の改定求める
布施祐仁・ジャーナリスト|2023年10月20日8:37PM
2002年に米兵による性暴力被害に遭ったオーストラリア人のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんは10月4日、国会内で記者会見を開き、性犯罪の根絶と日米地位協定の改定を求めた。
ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長による所属タレントらへの性加害問題に社会的注目が集まる中、キャサリンさんは「米兵による性加害も含めて、すべての性加害に等しく目を向けてほしい」と訴えた。
フィッシャーさんは02年4月6日、米海軍基地がある神奈川県横須賀市で見ず知らずの米兵にレイプされた。
彼女は助けを求めて日本の警察署に駆け込むが、そこで信じられない仕打ちを受ける。警察は動揺する彼女を被害に遭った現場に連れ戻し、実況見分を行なったのだ。さらに、彼女が病院での証拠保全を求めても、「けがはしていないだろう」などと言ってそのまま数時間にわたり警察署で事情聴取を続けた。
こうした二次被害に耐えながら彼女は警察の捜査に協力したが、検察は犯人を不起訴にした。米軍も軍法会議にはかけず、犯人が裁かれることはなかった。
納得がいかなかった彼女は、民事で提訴。裁判所は彼女の主張を認め、犯人に慰謝料など300万円の支払いを命じた。だが、犯人は判決が出る前に軍を除隊し、米国に帰国してしまっていた。
それでも彼女は諦めなかった。判決から7年後、犯人が帰国後も性暴力事件を起こして服役していた事実を突き止め、自力で居所を割り出す。そして米国でも民事訴訟を起こし、勝訴する。
気が遠くなるような労力と私財を費やしてここまでやったのは「犯人の逃げ得を許してはならない」という強い思いがあったからだ。日本では性暴力事件を起こした米兵が刑事でも民事でも責任をとらずに済まされているケースが多いために、事件が繰り返されていると彼女は考えていた。
米兵による性加害をなくしていくには、犯人が日本で厳正に裁かれなければならない。だが、現実はそうなっていない。
圧倒的に低い起訴率
フィッシャーさんから「米兵による事件と日米地位協定の関係について話してほしい」と依頼を受け、会見には筆者も同席した。
筆者は、13~22年の10年間に検察が受理した米軍関係者による強制性交・強かん事件の総数と起訴・不起訴数を明らかにした。ソースは、法務省に情報公開請求をして開示された検察の統計報告だ。
この10年間に強制性交・強かん事件の被疑者となった米軍関係者の総数は36人で、そのうち起訴されたのは3人、不起訴が33人である。起訴率は約8%だ。
一方、同じ10年間に日本全体で受理された強制性交・強かん事件の起訴率は約36%だ。これと比較して、米軍関係者が被疑者となった事件は起訴率が圧倒的に低い。
低い理由は、米軍にさまざまな特権を与えている日米地位協定や関連する日米合同委員会合意、そしてそれを運用する日本政府の米国追従の姿勢にあるとみられる。
フィッシャーさんは、日本政府が日米地位協定を改定しないことは「米兵による性加害を見過ごしているのと同じ」と指摘する。ジャニー喜多川氏の性加害と同様、それが行なわれていると知りながら止めようとしない者の責任も問われるのだ。
国連の拷問禁止委員会が07年に出した日本政府に対する勧告は、駐留外国軍関係者による性暴力を防止し、加害者を訴追するための効果的な施策が不足していることに懸念を表明した。それから16年が経つが、日本政府は何ら効果的な施策を講じていない。
「こんなに被害者が苦しんでいるのに、日本政府はなぜ『何とかしましょう』と言ってくれないのか。本当は、国連に言われなくても自らやらなくてはいけないことなんですよ」
フィッシャーさんはこう語り、米軍ではなく性暴力被害者を助けるための行動を日本政府に求めた。
(『週刊金曜日』2023年10月20日号)