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子どもだけの留守番は虐待? 
埼玉県条例改正案に批判続出

吉永磨美、阿久沢悦子・生活ニュースコモンズ|2023年10月27日7:13PM

 自民党埼玉県議団は10月10日、9月定例議会に諮った同県の虐待禁止条例改正案を急遽取り下げた。同改正案は子どもだけの留守番や外出を「置き去り」「放置」とみなし、保護者の安全配慮義務違反とするもの。6日に県議会の福祉保健医療委員会で可決。13日にも本会議で可決の予定だった。

自民党埼玉県議団が条例改正案で示した「放置」の事例

 委員会で可決された条例案の取り下げは異例。委員会採決直後から「条例改正となれば、埼玉県で子育てはできない」と県民から反対の声が上がり、オンライン署名も全国に拡大。こうした動きが取り下げにつながったとみられる。

 自民党県議団は10日、県議会の一室で会見を開き、取り下げの理由について「(条例改正案について)説明不足だった」と述べた。会見には同党県議団から田村琢実団長と中屋敷慎一幹事長が出席。田村団長は「(議員提案に向けた動きについて)指導不足だった」とも話した。一方で「条例案の構成や議会の手続きに瑕疵はない」とした。

 条例案の正式名称は「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例」。県議会最大会派の自民党県議団が提案した。「小学3年生までの児童を現に養護する者は当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない」として、家などに子どもを置いたまま保護者が外出することを虐待とみなして禁止。小学4年生から6年生については禁止ではなく努力義務とした。

 さらに「県民は、虐待を受けた児童等を発見した場合は、速やかに通告または通報しなければならない」と規定した。ただし罰則規定はない。自民党県議団は、車中に子どもを放置し熱中症で死亡する事件が相次いでいることを受けて条例案を出したという。取り下げたが白紙撤回とはしておらず、再上程の可能性がある。

反対の署名が10万筆超に

 会見で同県議団が「説明不足」だったとしたのは県虐待禁止条例にすでに規定されている養護者の「安全配慮義務」の解釈についてだ。同条例は2017年6月の定例県議会にて全会一致で可決・成立。改正案は自民党会派内にプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、パブリックコメントなどを経て議員提案で作られた。そこでは保護者の安全配慮の例として、家庭内で話し合いを持ち、子どもに防犯ブザーを身につけさせることなどを挙げ、こうした配慮を怠った場合、虐待と判断するとした。改正案作成に際し、専門家などの指導・助言を受けたかについて、田村団長は「PTのことなので、ここでは答えられない」とした。

10月10日、会見に応じる田村琢実・自民党埼玉県議団長(左)と中屋敷慎一幹事長。(撮影/吉永磨美)

 県児童虐待防止を担当する福祉部こども安全課によると、自民会派から児童虐待の現状については聞かれたが、改正案の中身についての相談はなかったという。文書課によると、一般的に埼玉県では知事提案の条例については同課で審査を行なうが、議員提案のものでは特に行なわれないという。

 また、同条例改正案に反対する「Change.org」のオンライン署名が6日に始まり、11日には10万筆を超えた。同日には署名呼びかけ人の野沢ココさん、署名活動に携わったみらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さん、日本大学文理学部教授の末冨芳さんが東京都内で会見を開いた。

 野沢さんは、条例が通って通常の子育ての行動を虐待としてしまった場合、緊急性を最も要する声を拾うことができなくなる可能性も指摘。「そんな中で、県民に通報義務を設ける、過度な禁止の義務を負わせることが本当に子育て世帯のためなのだろうか」と疑問を提示。天野さんは「こども基本法に立ち返って、どういうステークホルダー(利害関係者)がいて、どのような意見を持っているのか、まずはヒアリングを進めてほしい」と訴えた。

(『週刊金曜日』2023年10月27日号)

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