「Dappi」裁判、被告の会社側に賠償命じる判決も投稿者はいまだ不明
2023年10月30日6:20PM
匿名の「X」(旧ツイッター)アカウント「Dappi」の投稿で名誉を傷つけられたとして、国会議員2人が東京都内のウェブコンサルティング会社と社長、専務に損害賠償を求めた訴訟(※)の判決で、東京地裁の新谷祐子裁判長は会社側に計220万円の賠償と、投稿の削除を命じる判決を10月16日に言い渡した。会社側が地裁の求めた投稿者名開示を拒み続けたため、Dappiの投稿者はいまだ不明のままだ。
Dappi(@dappi2019)は2019年6月開設。ネット番組や国会中継の動画を切り取り、野党や報道機関を批判したり、与党議員の発言を評価したりする投稿を繰り返していた。20年10月25日には、公文書改竄を強いられ自殺した財務省近畿財務局の職員について作家の門田隆将氏が『産経新聞』に書いたコラムの写真を貼りつけ「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊るしあげた翌日に自殺」などとコメントをつけて投稿。立憲民主党の小西、杉尾両参議院議員は、この投稿で名誉が毀損されたとして、投稿に使われたネット回線契約者の会社と社長らを相手取り、計880万円の支払いを求めて21年10月6日に提訴した。
会社側は投稿が従業員によるものと認めたが「業務とは無関係の私的な投稿」と主張した。これに対し判決は、会社が社員15人の少人数で、投稿者の基本給が月110万円であることから「投稿者は会社で相応の地位にあり、重要な業務を担当していた」と判断。投稿時間が平日の午前9時から午後10時の間に集中し、会社回線以外からのログインがないこと、動画編集や要約、コメントを付ける作業に相当の時間と集中力を要することなどから「社長らは投稿者が業務時間の大半を投稿に費やしたことを把握していた」と認定した。
21年4月、原告側が発信者情報開示を求めた訴訟により、投稿にはこの会社の回線が使われていると判明。会社は投稿者に「厳重注意」したと述べたが、その後も提訴直前の10月まで投稿が途切れず続いたことを踏まえ、地裁は判決で「投稿は社長の指示のもと、会社の業務として行われた」とした。
会社側は「社長は週1、2回、専務は年数回しか出社していない」として、被告2人のいずれも投稿者ではないと主張した。これに対し判決は、投稿者名を明記した給与明細書を出すよう求めた地裁の文書提出命令に対し、会社側が応じなかったことなどから「給与明細書に社長の名が記載されている可能性は相応にある」と述べ、投稿は「社長の指示のもと、従業員あるいは社長によって行われたと認める」として、社長が投稿者である可能性に言及した。
「自民は説明責任果たせ」
投稿に引用された『産経新聞』コラムについて小西、杉尾両氏は、別の訴訟で産経新聞社と筆者の門田氏も提訴。東京地裁は22年11月の判決で名誉毀損を認め、同社と門田氏に計220万円の支払いを命じた。東京高裁も今年4月、地裁判決を支持し控訴を棄却した。
今回の訴訟で会社側は「わが国を代表する全国紙の『産経新聞』と、だれが管理者かもわからない匿名の本件アカウントでは、社会的影響力は大きな差がある」と強調し、原告らの精神的損害は産経新聞社の訴訟で認定された額よりも「大幅に少なくなるはず」と主張した。これに対し東京地裁は判決で「投稿時点でのフォロワー数が15万9300人に及び、社会的影響力は軽視できない」と指摘。投稿が産経記事の引用に加えて「1時間吊るしあげた翌日に自殺」などと「耳目を集める表現を含んだコメントを追記した」ことも踏まえ『産経新聞』の訴訟と同様に計220万円の支払いを命じた。
判決を受けて杉尾氏は「全面勝訴ともいえる内容」と歓迎。「被告会社は自民党と取引関係があり、一連の投稿が執拗に野党を攻撃している。自民党によるネット操作の一環ではないか。被告会社に明確な説明を求めたい」とコメントした。また小西氏もツイッターに「自民党の関与を疑わざるを得ず、自民党は説明責任を果たす必要がある」と投稿した。
北野隆一・『朝日新聞』編集委員
※今年6月に行なわれた最終弁論の模様は『週刊金曜日』7月7日号で既報。
(『週刊金曜日』2023年10月27日号)