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「指名NGリスト」の望月衣塑子記者から見たジャニーズ問題

望月衣塑子・『東京新聞』記者。|2023年10月31日8:56AM

メディア自身、意識改革を

 とはいえ、2回目の会見後はテレビ局の報道も徐々に変わりつつある。NGリストの存在はNHKが夜7時のニュースのトップでスクープ。その数日後には「〝NHK内で複数回、性被害に〟男性が証言」と自局にからむ新たな疑惑を報じた。NHKは「看過できない問題で、今後、出演者の安全や人権を守る取り組みをさらに進める」と宣言した。

 だが驚くことに、事務所がその夜に出した声明には「被害者でない可能性が高い方々が虚偽の話をしているケースが複数あるとの情報に接している」とあった。証言の男性を「嘘つき」といわんばかりで、ネット上では「加害者側がそれを言ったら終わり」「被害者の口を封じ込めるような声明」と批判があがった。

 またTBS「報道特集」が、元Jr.の男性の証言として「僕にも(東山氏が)『今日お前だよ』とか、他の人間には『お前やられて来いよ』とか、普通に発していた記憶がある」と報じると、事務所は後から「東山が『加害を助長した』との一部報道について、本人が再三否定」という声明を出した。東山氏の疑惑は複数の証言や告発本があり、私も二度の会見でそれぞれ質問した。加害に関与していれば、新会社トップの資格はないからだ。東山氏は9月の会見では「したかもしれないし、してないかもしれない」と述べたが、10月は「セクハラはしていない」とした。誤魔化そうとしているように感じた。

 事務所の相次ぐ反論声明には、人権救済などそっちのけで、自己弁護と保身に汲々とする姿勢が表れている。事務所幹部らが性加害の全体像と過去の罪に向き合わなければ、事務所の未来はない。所属タレントやファンのためにも、外部から危機管理や経営のプロを招くべきだ。

 ジャニーズ問題は芸能界だけでなく、メディアが抱える構造的な問題も炙り出した。第2次安倍政権以降、官邸は記者を選別し、事前に質問取りまでしている。首相会見は記者の出席も質問数にも制限をつける。外国プレスやフリー記者を排除するのにリストすらいらない。そのウラで、官邸に協力的なクラブ記者は「特ダネ」をもらい、社内で出世して発言力を強め、「自民一強政治」をゆるぎなくする――。ここで犠牲を強いられる「被害者」は国民全体ということを忘れてはならない。情けないことだが、ジャニーズ問題は「外圧」がなければ動かなかった。メディアはジャニーズ事務所に人権救済を求めるだけでなく、自らも本来の役割を取り戻すため、客観的検証と意識改革が必要だ。

(『週刊金曜日』2023年10月27日号)

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