続く「日の丸・君が代」の強制
学校に自由と人権求め都内で集会
永尾俊彦・ルポライター|2023年11月6日8:19PM
東京都教育委員会が2003年10月23日に全都立学校長に出した「10・23通達」から20年。同通達により各校長は卒業式・入学式などで教職員に「日の丸・君が代」への起立斉唱を職務命令で強制しているが、同通達撤回と学校に自由と人権を求める集会が10月22日に都内で開かれ、190人が参加した。
最初に主催団体を代表して「被処分者の会」事務局長の近藤徹さんが挨拶。都立高校入試への英語スピーキングテスト導入強行を例に、どんなに反対されても一度決めた方針を決して改めない都教委の姿勢を批判し「全国でも稀にみるひどい都教委の教育行政の根源に10・23通達があります」と指摘。今春問題になった大阪・吹田市教委の「君が代」暗記調査をあげ、「日の丸・君が代」強制の真の狙いは「子どもたちに国家への服従を刷り込むこと」とし「命令と処分の教育行政に終止符を打ち、子どもたちの伸びやかな成長と発達を保障する教育の再生」を訴えた。
続いて文芸評論家の斎藤美奈子さんが「それってどうなの主義で行こう!」と題して講演。故ジャニー喜多川氏による性加害問題、小池百合子都知事の関東大震災朝鮮人犠牲者追悼文送付拒否問題、岸田文雄内閣(副大臣・政務官)女性ゼロ問題を取り上げ、日本が「世界に冠たる(?)人権後進国」から脱皮するには、11年に国連が「人権教育と研修に関する国連宣言」を出し、子どもたちに人権教育をしなければならないと宣言したことに倣えと指摘。「人権問題はやさしさや思いやりでは解決しない。子どもたちに、いじめられるのは自己責任ではなく、(保護義務を果たさない)国、社会、学校が悪いと教えないとダメ」と述べた。そして「内部告発がないと変わらない。私たちの人権センサーを磨き直そう。おかしいなと思った時には口に出し、『それってどうなの』と告発しよう」と呼びかけた。
不起立の権利、画期的勧告
起立斉唱の職務命令に従わず処分された教員らは処分取り消しを求めて東京「君が代」裁判5次訴訟を続けている。その原告の大能清子さんが集会後半の冒頭で裁判の意義について報告した。再生可能エネルギー100%と公正な社会をめざす「ワタシのミライ」という集会で出会った在日4世の都立高校生が「祖父母から植民地時代の苦しい思いを聞いたので本当は『君が代』で立ちたくないが、こんなことを考えているのは自分一人と思い、まわりの人が皆立っているから立ってきました」と話していたことを紹介。「このように10・23通達はその本領を発揮している。当初テレビや新聞はこの問題を盛んに取り上げたが、世の中が騒がなくなればいつかこういう日が来ると思った。だから今こそ声をあげ、声をあげられない生徒たちに声をあげられる自由な学校をプレゼントしたい」と述べた。
続いて「東京・教育の自由裁判をすすめる会」国際人権プロジェクトチームの新井史子さんが、同チームなどの申し立てから17年11月に国連自由権規約委員会で、10・23通達により「儀式で生徒を起立させるために物理的な力が用いられ、教員には経済的制裁が加えられている」として都教委が名指しで批判されたことを紹介した。「物理的な力」とは、障害児を起立させるために教員がお尻を持ち上げたなどの行為を指す。
また、昨年10月の同委員会の審査では、スペインのゴメス委員が、国歌斉唱時に静かに座っている教員の態度は自由権規約18条1項の「思想・良心の自由に基づく良心的命令拒否の適用を受けるのではないか」と「胸のすく質問」をしたと新井さんは評価した。だが、政府や文部科学省は「勧告には法的拘束力がない」などと不誠実な態度だったという。
そして昨年11月、「締約国は思想・良心の自由の実質的な行使を保障し、規約18条で許容された制約の厳密な解釈を超えてその自由を制約するいかなる措置をも控えるべき」という画期的な勧告が出されたと報告。新井さんは「これは不起立の権利を保障せよということ。この勧告を今後の裁判や運動に活かしましょう」と呼びかけた。
(『週刊金曜日』2023年11月3日号)