映画『過去負う者』公開
この国の不寛容を問う
雨宮 処凛|2023年11月6日6:59PM
あなたには、「人に言いたくない過去」はあるだろうか?
私には、ある。山ほどある。四十数年も生きていれば当然だ。
それだけじゃない。前科はないが、多くの罪を犯してきたという自覚もある。人を傷つけたことがあるし、自殺願望のかたまりだった10代、20代の頃は常に世を憎んでいた。誰にも必要とされないことが耐えられなくて、一時期右翼団体にだって入ってた。
経験しなくて済めばよかったかもしれないけれど、そんな過去があるからこそ、今の自分があると思っている。
しかし、その過去が「前科」だったら、そうは言えないだろう。
突然こんなことを書いたのは、『過去負う者』という映画を観たから。
罪を犯した元受刑者たちの社会復帰への「壁」を描く作品だ。
現在、満期出所者が5年以内に再犯し、再び刑務所に入る確率は約50%。再入所者の7割が無職だったという。
その背景にあるのは、元受刑者たちを受け入れてくれる職場が圧倒的に少ないということだ。
『過去負う者』では、そんな元受刑者たちと、彼ら彼女らを支援する人々のあれこれが描かれる。
彼らの罪はさまざまだ。ひき逃げ、子どもへのわいせつ行為、覚せい剤、そして、放火――。
刑期を終えた彼ら彼女らに、この社会は優しいとは言い難い。
しかし、それでも働き、生きていかなければならない。
が、ことあるごとに自らの「過去」が足を引っ張る。社会復帰のため、もがき、あがく元受刑者たち。そんな彼ら彼女らに支援者は演劇によるドラマセラピーを提案。稽古を重ね、舞台『ツミビト』が上演されるのだが――という内容だ。
この映画が突き刺さるのは、「ドキュメンタリー×ドラマ」という手法がとられていること。あえて台本は用意されず、俳優たちは自身の言葉を台詞として発する。そのことが、鬼気迫る空気となり観る者を圧倒する。
この国の不寛容を問う『過去負う者』は、東京・ポレポレ東中野で公開中。全国で順次上映されるようである。
(『週刊金曜日』2023年11月3日号)