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「名門男子校」のジェンダー教育を嘲笑する年長男性 
揶揄自体が教材にも

太田啓子・弁護士|2023年11月7日5:09PM

 最近、男子校におけるジェンダー教育の実践についての報道を時々見かけるようになった。特にいわゆる「名門男子校」におけるジェンダー教育が注目されるのは、彼らが「エリート」の卵だからである。たとえば大学通信オンラインで東京大学の2023年合格者高校別ランキングをみると、上位20校のうち14校が男子校(県立浦和高校を除き13校が私立中高一貫男子校)だ。

灘高での「生理」の授業を報じる神戸新聞NEXTの記事(2022年10月8日)

 今の日本社会で、政界、官僚、財界、法曹などの指導的地位を占める人達に「名門男子校」出身者は多いだろう。そして、彼らのジェンダーについての感覚がまっとうであったなら、どれだけ今の日本社会はより良い状況であっただろうかと思わずにいられない。

 東京大学の19年度入学式で女性差別について述べた祝辞が話題となった上野千鶴子氏は、田房永子氏との対談本『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』(大和書房)で、「東大の新入生を見て、『オヤジは再生産される』って思いました(略)もちろんみんながみんなってわけじゃないけど、私の祝辞への反応を見ればわかる」「彼らの多くは中高一貫私立男子校出身者。江原由美子さんの調査では、男子校男子のジェンダー意識がもっとも保守的って結果が出ています」と話している。

 国際男性デー(11月19日)に合わせて22年11月17日に公開された朝日新聞オンライン記事は、複数の名門中高一貫男子校におけるジェンダー教育を取り上げている。 灘中学・高校(兵庫)で行なわれた「ジェンダーを学ぶ」講座では、女性の性暴力被害や低賃金の問題を学ぶとともに男性の感情表現を題材にしたこと、洛星中学・高校(京都)ではワンオペ育児などの家事男女格差や社会における男性特権など、少子高齢化社会の背景にあるジェンダー課題を度々取り上げたことを報道。中学3年生の男子生徒が「女は楽でいいな」と思っていたが、「女性の性被害や性差別の経験を知り、衝撃を受けた。また、『男はこうあるべきだ』との自分の思い込みにも気づき、『世界の見え方が変わった』と語る」と伝えている。

「茶化しもセクハラ」

 この記事のタイトル「『女は楽でいいな』が変わった」は秀逸で、中高生の時点ですでに無理解に根差した女性へのうっすらとした反発があること、それは学びによって変わることが端的に表れている。神戸新聞NEXTも22年10月8日、「灘高で『生理』の授業、講師役は甲南女子大生ら(以下略)」と、灘中・高で生理について学んだ授業について報じている。 

 灘中・高のジェンダー教育は今年も取材されており、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏の記事「『性的同意ってなに?』灘校生が甲南女子大生と学ぶ、生理の悩みとデートDV」がJBPRESSで9月19日に公開されている。生理の仕組みや女性の悩み、性的同意やデートDVについて男子生徒が真剣に学ぶ授業の様子が具体的に取材されたものである。

 ところがこの記事についてX(旧Twitter)で、「これは灘校生、胸と股間が熱くなりすぎるのでは」「甲南女子大のお姉さんと性的同意できた?」などと揶揄・嘲笑するような反応が多数あった。ただ、これらには「授業を受けた」とする灘の生徒を名乗るアカウントが反論。「茶化すだけの気持ちがセクハラになってることに気付いてほしい」という反応もあった。これら一連の経過も含めて、ホモソーシャルの根深さと攻撃性についての教材のようであった。

 筆者も昨年、灘中高生にジェンダーについて講義する機会を得たが、10代の柔軟さは素晴らしく、的確で明晰な質問に感じ入った。年長男性がジェンダー教育を揶揄する様子も含め、次世代は冷静に見ている。このような教育の意義と必要性が周知されるような報道の増加を願っている。

(『週刊金曜日』2023年10月27日号)

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