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核所有は「抑止力」という名の戦争準備である

田中優子|2023年11月10日5:10AM

田中優子・『週刊金曜日』編集委員

『放射線を浴びたX年後Ⅲ サイレント・フォールアウト~乳歯が語る大陸汚染~』(伊東英朗監督)の自主上映会が各地で開かれている。早速見て衝撃を受けた。折しもウクライナ戦争とガザ攻撃。子どもたちが傷つき殺される映像が毎日飛び込んでくる。戦争とは、その最中も残酷なものだが、戦争の後もその準備も、すべてが多くの人への加害となるのだ、と改めて思った。

 Falloutとは放射性降下物のこと。映画で取材しているのは1951年から始まった米国ネバダ州の核実験が及ぼした影響である。100回の爆発実験と、828回の地下実験が行なわれたという。これらの実験で空中に放出されたのはヨウ素131、プルトニウム、ストロンチウム90、セシウム137などだ。すぐ近くの牧場で生まれ育った当時12歳の高齢女性は、父を含め8人をがんで亡くした。55年生まれの女性は娘も姉も姉の息子たちもがんや白血病で亡くした。子どもたちの代にまで影響が及んでいたのだ。ユタ州ソルトレイクシティで55年に生まれた女性は、自分もがんに罹患し、周囲の多くの知人友人たちを、ありとあらゆる種類のがんで亡くしている。

 この映画のもう一つの中心は、実験場からは遠く離れたミズーリ州セントルイスに暮らしていた女性の運動である。医師であり母親であったこの女性は、牛が牧草でストロンチウム90を吸収することから、全米の牛乳が汚染されているのではないかと考え、58年に女性たちで活動を始めた。子どもたちの乳歯を6万本以上集めたのだ。共産主義者だと非難されながらも論文を発表し、61年までにストロンチウム90の蓄積量が30倍に増えていることがわかった。この事実に直面したケネディ大統領(当時)は英国、ソ連(当時)との間で部分的核実験禁止条約を実現したのである。こうして米国の核実験は事実上なくなった。しかしその後も、さまざまなデータから、放射性物質が全米を覆っていたことがわかっている。

 今こそ伝えるべきことだ。自分が生きてきた時代をいかに知らないか痛感した。核所有は「抑止力」という名の戦争準備である。戦争は準備段階から国民を滅ぼす。今の日本の戦争準備も、生活を蝕み始めている。判断を誤らないよう、何が起きているかを常に知ろう。「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」は、さらに多くの情報を集め、発信しようと思う。

(『週刊金曜日』2023年11月10日号)

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