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袴田事件発生から57年、ついに再審始まる 
「裁かれるべきは警察、検察、裁判所だ!」

粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年11月14日3:44PM

検察側の本音は?

西嶋勝彦弁護団長(手前)らとともに再審の始まる裁判所に入る袴田ひで子さん。(撮影/粟野仁雄)

 閉廷後「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」(楳田民夫代表)の山崎俊樹事務局長の司会で記者会見が行なわれた。

 ひで子さんは改めて意見陳述書を読み上げ「90歳になって初めての裁判です。のんべんだらりとした検察の話を聞いていて『これじゃ57年かかるな』と思いました」と朗らかに話し、隣の小川秀世弁護団事務局長の苦笑を誘った。

 西嶋勝彦弁護団長は「4人がそれぞれどの部屋で殺されたのかを聞いたら検察の返事は『居住空間です』でした。言葉を作りますね。感心しました」と皮肉った(安間さんは後日「検察は若い3人でしたが、裏木戸が開いていたかのように言ったり、作文や印象操作でごまかそうとしている感じでしたね」と筆者に話してくれた)。

 最後に山崎さんが弁護団に「検察が自白調書を証拠提出しないのは拷問など強制があったことを認めたからでしょうか?」と尋ねた。小川さんは「信用性はないと見たからでしょうけど、強制を認めたのではないと思う」と回答。田中薫弁護士は「一審判決は自白調書45通のうち44通を排除し、1通だけを採用しましたが、それも犯行時間がおかしかったり、録音テープが出てきて使えなくなったためだと思います」と答えた。検察幹部は「自白以外に有罪立証の証拠がある」としているそうだが、原審で唯一採用された検面調書の作成過程のごまかしが追及されるのを恐れたのではないか。

 確定審で検察が出していた証拠が再審請求審では根拠薄弱が露呈したことが再審での特徴である。再審での検察の主張について角替弁護士は「確定審では雨合羽を脱いだとしていたのを、着たままの犯行にした。巖さんが奪った金を松下という女性に預けたとしていた主張も使えなくなった。犯行着衣とされたズボンの裏地に記された『B』もサイズではなく色を示す記号だった。使えない証拠だらけです」と説明した。

 何としても裁判所に「捜査機関の捏造」だけは否定させたい検察は事実上、これだけ重要な鑑定を頼まれながら誰一人名を明かさなかった法医学者らが「赤みが残ることがある」としてくれた共同鑑定書にすがるしかない。

 袴田事件では、当初の弁護人が「警察が捏造をするなどありえない」としてしまったのが決定的な失敗だった。

 弁護団は冒頭陳述で弁護士の過ちにも言及しているが弁護過誤を陳述書に書くことは稀有だ。「先輩弁護士らの轍は踏まない」との意欲が感じられた。それを筆者に問われた小川さんは「最初の弁護士の責任は否定できないが、再審の場で責任追及するわけではない」などと答えた。

 弁護団は来年3月での結審を見込んだが、証人尋問等の進行次第では延びる可能性があるという。

 静岡地裁の一審を担当し、合議で唯一人、無罪を主張した熊本典道裁判官(故人)は、罪状認否で被告人席の袴田巖さんをじっと観察した後に「我々が裁かれているみたいですね」と当時の石見勝四裁判長(同)に漏らしたという。

 裁かれるべきは袴田巖さんではない。再審初公判の法廷で、小川弁護士は声を大にした。

「信じがたいほどひどい冤罪を生み出した我が国の司法制度も裁かれなくてはならない」

(『週刊金曜日』2023年11月10日号)

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