統一教会・田中会長「解散命令請求は受け入れがたい」「謝罪となると簡単にできない」
北野隆一・『朝日新聞』編集委員|2023年11月17日6:25PM
世界平和統一家庭連合(統一教会)の田中富広会長が11月7日、東京都渋谷区の教団本部で記者会見し、献金問題について元信者や2世信者らに「心からのおわび」を述べた。だが「おわびは謝罪か」と問われると否定し、「被害者という言葉は簡単に使わない」とも言明。深々と頭を下げながら「謝罪とはしたくない」との強い意思が伝わる奇妙な会見だった。
田中氏は、安倍晋三元首相が昨年7月に銃撃された3日後の7月11日と8月10日の2回、記者会見している。8月の会見でも「社会のみなさまにも、お騒がせしたことに深くおわびする」と頭を下げた一方「過去も現在も霊感商法を行なったことはない」とも強調し、教団の責任を認めなかった。
今回、1年3カ月ぶりに記者会見を開いた理由について田中氏は「解散命令請求に対する文部科学省の発表があまりにも受け入れがたいものだった」と説明。解散は「信教の自由、法の支配の観点から到底受け入れられない」として、今後も法廷で争う姿勢を示した。
解散命令請求をきっかけに、教団資産の海外流出を懸念し、財産保全の法整備を求める議論も始まっている。田中氏は「海外への送金は止めており、財産保全特措法の必要性はまったくない」と国会での議論を牽制。「法的主張は必ず司法の場で認められると確信している」と強調しつつ、司法判断が出るまでの間「供託金」として国に60億~100億円を拠出すると提案した。「供託」を受け入れる現行制度がないことを踏まえ「特別措置として国で制度を用意していただければ」と政府に求めた。
金額の根拠として、全国統一教会被害対策弁護団が教団との集団交渉を求めている124人の被害者による要求総額が約40億円に上ることに言及。「教団として確認できた法的に有効なものは約8億円」と主張しつつ「60億円あれば十分と考えるが、念のため100億円まで対応できる」と説明した。
「教団の過ち」は認めず
記者からは、田中氏が「謝罪」や「被害者」という言葉を避けたことへの質問が相次いだ。
「おわびは謝罪か」との問いには「被害者が特定されて初めて謝罪という言葉が使われる。いま法廷で議論が始まったので、謝罪という言葉とは距離を置かなければならない」と答えた。「明確に教団としての過ちがあれば謝罪しなければならないが、被害者や被害金額が不明確な中、被害者という言葉は簡単に使わない」と述べて「教団の過ち」を認めなかった。
筆者は「教団の責任を認定されて確定した裁判が何件もあるのに、被害者と認めないのか」とただした。田中氏は「裁判で明確に被害を受けた(と認定された)方は被害者でいいと思うが、今回の解散命令請求の裁判に絡むものも多々あり、それも含めて謝罪となると簡単にはできない」と語った。
別の記者から「自分たちの加害行為を明言せず、相手方を被害者と認定しないままお金を用意するのは失礼ではないか」との質問も出た。田中氏は「むしろ被害者も被害額も不明確で、今国会で財産保全措置が語られることのほうが理解できない」と反論した。
教団から唐突に示された最大100億円拠出の提案について、政府では「解散命令請求を避ける情状酌量戦略だ」との見方が強く、正面から取り合う様子はない。
全国統一教会被害対策弁護団は9日に声明を出し「責任を末端信者に転嫁し、組織としての責任を否認した」と教団を批判。「100億円を国に預ける」との提案については「被害者を無視した無責任かつ身勝手な対応。財産保全の法整備や解散命令逃れの保身、パフォーマンスだ」と断じた。
「おわび」と「謝罪」は違うのか。『広辞苑』『大辞泉』は「謝罪」を「罪や過ちをわびること」などと説明。「わびる」については「あやまる。謝罪する」などとあり、違いはほぼない。ただ『大辞林』の「詫びる」の注釈には「あいさつ言葉として、具体的な損害を与えたのではない場合にも使える」とある。教団はこのニュアンスの違いに着目したのだろうか。
(『週刊金曜日』2023年11月17日号)