ヘルパー国賠訴訟控訴審が結審
原告ら「移動や待機にも賃金を」
西村仁美・ルポライター|2023年11月20日12:48PM
登録型の訪問介護員(ヘルパー)3人が、介護の現場における労働基準法違反の環境に厚生労働省が規制権限を行使しないのは違法だとして起こした国賠訴訟の控訴審(一審判決は本誌昨年11月11日号既報)で、原告側の最終意見陳述が10月25日に東京高裁(谷口園恵裁判長)で行なわれた。
同日には、女性のケア労働問題に詳しい実践女子大学の山根純佳教授の証人尋問もあった。山根氏は自身の独自調査によるものを含むデータを基にヘルパーの労働実態を証言。出来高払い制の下、訪問先でのサービス提供を含む拘束時間中、約4割が移動や待機、記録付けなどの付帯労働に充てられながら、その部分の報酬は皆無に等しい点を指摘。また、非営利の社会福祉協議会が運営する事業所が最近5年間で約13%減るなど、事業所の努力だけでは労働環境の改善が困難な実態を紹介。「労働者がきちんと働ける環境にしなければ介護保険制度は意味がなくなる。国に労働者保護の観点がない限り介護保険サービスの拡充も維持もできない」と述べた。
被告の国から反対尋問は無し。原告の3人による意見陳述では、伊藤みどりさんが「介護に効率化を持ち込んだ国の施策により労働者が激減した現場に働く、生きたヘルパーへの意識を国はお持ちでしょうか?」と問いかけた。藤原路加さんは「国は何十年も働き方の実態調査もせず放置してきた。事業所だけの責任にせず、効率化ばかり追求する非人間的な仕事を私たちに押しつけないでほしい」と言い涙ぐんだ。佐藤昌子さんは「欠陥だらけの介護保険制度は崩壊しており、人手不足は当然の結果。人間としての尊厳が守られるか否かが問われた裁判」だと締めくくり、閉廷後の報告集会でも、そこが一番伝えたかったことだと語った。裁判は結審し、判決は来年2月2日午前11時に同高裁515号法廷で言い渡される。
(『週刊金曜日』2023年11月17日号)