川内原発めぐる県民投票請求は否決 鹿児島県知事には公約違反の声も
薄井崇友・フォトジャーナリスト|2023年12月5日6:46PM
原子力規制委員会は11月1日、九州電力が申請した川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の20年運転延長を認可した。「異例中の異例」だったはずの20年延長は国内で5、6基目。失格は過去に1基もない。岸田文雄政権には老朽原発の20年延長は当たり前、国と電力会社が勝手に決めた内容に地方は従うほかないのか――。
だがそうした中、鹿児島県では筆者が本誌6月9日号と9月1日号で報じたように「川内原発20年延長を問う県民投票の会」が、必要数の約1・74倍(確定有効署名4万6112筆)の署名を獲得。これを受けて10月4日には同原発の運転延長を問う県民投票条例を県に本請求した。
塩田康一県知事は23日に県議会臨時会を招集。本案の付議には県民投票への賛否を明言せず、福島原発事故以降の5都県での原発運転に関する住民投票条例案では「多様な意見が二者択一では反映できない」などの理由ですべて否決されたとし、本案も「慎重に判断すべき」と否定的意見をつけた。同日の意見陳述で「県民投票の会」の向原祥隆事務局長(出版社「南方新社」代表)は「危険な原発が寿命を超えて長期間運転する重大問題を一回立ち止まって判断したい。(署名数は)その意思表示。鹿児島の未来を若い県民と一緒に作っていくためにも歴史に残る誇り高い選択を」と賛成を呼びかけた。しかし26日の本会議では与党が知事に同調。51議席中、賛成11、反対39(自民34、公明4、無所属1)の反対多数で否決された。
当然これには「もったいない!」と声が上がった。そうした声の背景を、筆者は現地で取材した。
まず向原さんは「県民投票は知事が言い出したこと。二者択一だからダメというのは理由にならない。公約違反だ!」と指摘した。同県の知事選挙では2016年、テレビ朝日のニュースキャスターだった三反園訓氏(現在は衆議院議員)が脱原発を掲げ当選したものの後に原発容認へ変節。これに公約違反との声が上がり、20年の知事選では経済産業省の官僚だった塩田氏がそうした声を受け、同原発の20年運転延長は「必要に応じて県民投票を行なう」との公約で当選した経緯がある。
「県民投票の会」幹事の杣谷健太さんも「県民の議論は劣り、議員なら多様な意見をくみ取れるというなら県民を下に見た話だ」と一喝。「若い人たちが耳を傾け、県民投票の意義を伝えようという署名集めの場が未来を話し合う場になっていった」舞台裏の様子を話し、議論に優劣はないと訴えた。
来年7月には県知事選が
署名運動ではイラストレーターの黒田征太郎さんから応援の絵が送られ、それも盛り込みつつ知事に署名への賛成を求めるチラシを作るなどの活動を、地方紙が連日1面トップで報道。県民にはその存在が広く浸透した。
他方で県議会与党への働きかけは難航。事務局の常駐スタッフを務めた西村亜希子さんは「知事には会ってもらえなかった。与党の議員は知事の意見書次第だという声が多かった」と話した。向原さんも「自民党の縛りは固かった」と議会交渉を総括。「今後、川内原発をどうするか? 県民投票を通して論じあう絶好のチャンスだったのに」と否決を惜しんだ。川内原発には20年延長問題の他に3号機新増設や使用済み核燃料保管場所が満杯などの大問題があり、否決はこれに向き合う好機を奪った。だから「もったいない」のだ。
24日の委員会で参考人を務めた鹿児島大学の宇那木正寛教授(行政法)は「県民が賛否を含めた必要な情報を基に熟議し、結論を出すことが県民投票の意義」と語る(『南日本新聞』11月5日)。
直接請求運動の果実は住民投票の実現だけではない。向原さんは「知事の公約違反や、与党県議が政府・九電ばかりを見て、県民や鹿児島の未来を見ていないことが明白になった。幸いリコール運動をしなくても来年7月に県知事選がある。野党を一つにまとめて公約違反の知事を代え、県民に向き合う議員を増やしていく運動を続けます」と前向きに話した。
(『週刊金曜日』2023年12月1日号)