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「たたかいの中で歌は生まれた」崔善愛

崔善愛|2023年12月5日7:34PM

崔善愛・『週刊金曜日』編集委員

 イスラエルの圧倒的な武力で、ガザ地区のまったく罪のない子どもたちが血を流し、生まれたばかりの新生児が病院のベッドで死にゆく。耐えがたく、直視できない。

 私たちの暮らすアジアも、いつどうなることだろう。沖縄・奄美などの南西諸島では子どもたちの通学路にも米軍や自衛隊の戦車が行き交う。それが日常化している。

 今年8月、麻生太郎自民党副総裁は台湾で「戦う覚悟」などと、好戦的で挑発的発言をした。また木原稔防衛相は、自身のホームページに「教育勅語の廃止で道義大国日本の根幹を失ってしまいました」と書き込み、議員会館に「教育勅語」を掲げていたという。このような政治家らが、この国を動かしている。その危うさに、いかに抗えばよいのだろうか。

 わたしにとっては、舞台が抵抗を表出する場だ。

 2005年、日本では稀有なコンサートが立ち上がった。「コンサート・自由な風の歌 学校の『君が代』強制に直面する音楽教員たちのために」だ。このコンサートの企画を作曲家・林光さん(1931~2012年)が主導し、私も共演、今年で17回目を迎えた。結成された合唱団の中心メンバーは、「ピアノ裁判」「もの言える自由裁判」などの原告で、音楽教員たちだ。いわば「国歌をうたわない」自由をもってつながる合唱団。これまで「日本国憲法・前文」「第9条」「新 原爆小景」(すべて林光作曲)などをうたってきた。

 1999年の国旗国歌法制定の前後から、「君が代」を「大きな声で」「心を込めて」うたう指導を命じられた音楽教員らは苦しんできた。毎年の卒・入学式が近づくと体調を崩し、胃から出血し入院した教員もいた。わたしはそんな教員に本来の音楽のよろこびを取り戻してもらいたいと、小さなコンサートを開こうと提案した。それが「自由な風の歌」へとなった。

 林さんは生前、こんな話をされている。

「舞台上では皇帝や為政者への抗議を堂々と表現できる。為政者らはその音楽が自分に向けられた抗議とは気づけないから」

 これはシューマンが、ショパンの華麗な音楽の奥にはロシアの専制君主へ向けられた大砲が隠されている、それを皇帝が知ったならショパンの音楽は禁止されただろうなどと書き残したことに通じる。暴力への抵抗を舞台で思いっきりうたい、奏でたい。

(『週刊金曜日』2023年12月1日号)

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