実父からの性虐待によるPTSD発症で控訴審判決
広島高裁は女性の請求棄却
小川たまか・ライター|2023年12月8日3:13PM
実父からの性虐待が原因でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして40代の女性が損害賠償を求めた控訴審の判決が11月22日に言い渡された。広島高裁(脇由紀裁判長)は、民事訴訟の請求権がある20年を過ぎているとして控訴を棄却した。
女性は幼少期から中学2年生の頃まで継続的に性虐待を受けたと主張。その後、慕っていた祖母との別離などをきっかけに2018年1月頃からフラッシュバックが始まり、PTSDの診断を受けた。
性虐待を不法行為の起算点とした場合、民事訴訟の請求期間である20年は過ぎているが、PTSDの発症を起算点として考えれば請求期間内であるとして、約3700万円の損害賠償を求めていた。幼少期の性虐待については、不法行為ではなくうつ病の発症時期を起算点として原告の訴えを認めた判決が過去にある(14年9月25日、札幌高裁での逆転判決)ため、判決の行方が注目されていた。
実父は性虐待の事実は認めたものの、女性をかん淫したのは女性が小学校4、5年生頃の2回程度だったとし、女性の主張はPTSDやアルコール依存による記憶の増幅だと主張していた。
脇裁判長は判決で、かん淫被害の頻度や時期に関して女性の証言は一貫しているとして実父の主張を退けた。一方、18年1月のPTSD診断を起算点とする女性側の主張については、女性が10代後半に実父を罵倒したことがあった事実から「その当時から本件性的虐待の意味を理解していたと認められる」とした。
女性側は10代後半当時はまだPTSDという病名すら知らず、その症状を有している自覚もなかったと主張したが、判決はこれを認めなかった。さらに民事訴訟にあたって女性を診察した精神科医の所見について、女性が医師に話した性虐待の内容が「客観的裏付けが乏しく」「当裁判所において認定できない事実を基礎にした」として避けた。
また、性虐待が行なわれた当時に実父が女性に「好きだからやるんや、誰にも言ったらだめよ」と言ったと女性が証言したものの、10代後半以降に実父が女性の権利行使(刑事事件化や民事訴訟)を妨げる言動を行なった事実は認められないとして、実父が女性に対して被害の告発を許さない心理状態を作り出したとは言えない、と判断した。
市内では女性支援デモが
判決後に女性と代理人弁護士らが出席した記者会見で、代理人の寺西環江弁護士は「非常に残念。上告をして最高裁の判断を仰ぎたい」と話した。また、女性が医師の診断を受ける際に話した内容を裁判所が「認定できない事実」として判断そのものを避けたことについて「診断書に書いてある被害の客観的裏付けがないから(医師の)意見書の信頼を落とすことになるのであれば、ほとんどのPTSDが認められないことになる」と話したほか、「裁判所の判断は、原告がもっと早く訴えられただろうというものだが、家族を性被害で訴えるのはとても抵抗があることだ。(一般の人にとって)裁判所は使いやすい場所ではなく、ハードルが高い。弁護士にも相談に行きづらい。そうしたこともわかっていない」と落胆を見せた。
原告女性は「(女性側が)医師の尋問をお願いした時に、裁判長が認める気はありませんと言って、その時にダメ(棄却)だなとは思っていました。その時点から、理解する気がない、わからないんだろうなと。諦めてしまったらダメなんですけど、この苦しい気持ちをどう伝えたらわかってくれるのかな」と苦しい胸の内を明かし「黙っていたら変わらないから裁判は続けていかないといけない。生きていくのがつらいなと思います。こんな判決が出たら子どものときに被害を受けたら訴え出ることができず、やり逃げしたものが得というふうになってしまう」と上告についての思いを語った。
この日、広島市内では判決に合わせて女性を支援するフラワーデモが行なわれ、35人ほどが花を持って参加した。
(『週刊金曜日』2023年12月8日号)