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「生活保護費引き下げは違法」名古屋高裁が逆転判決 
裁かれた「密室行政」とは

三宅勝久・ジャーナリスト|2023年12月21日3:28PM

「司法は生きていた」。名古屋高裁の玄関から走ってきた弁護士らが垂れ幕を掲げると、法廷に入りきれなかった数十人の支援者らから歓声が上がった。抱き合う人、拳を上げる人、涙ぐむ人――。

判決後、裁判所前で逆転勝訴を報告する弁護団。(撮影/三宅勝久)

 厚生労働省が2013年から3年間にわたり生活保護基準額を平均6・5%、最大10%という前例のない大幅な引き下げを行なったことについて、大臣の裁量権逸脱だとして引き下げ処分の取り消しなどを求めた「いのちのとりで裁判」の名古屋高裁判決(一審名古屋地裁、原告敗訴)が11月30日にあり、原告が逆転勝訴した。冒頭は判決直後の裁判所前の光景である。

 長谷川恭弘裁判長は、基準引き下げの手続きに「重大な過失」があったとして、引き下げ処分の取り消しを名古屋市などに命令、さらに国家賠償法に基づく慰謝料(1人あたり1万円)の支払いを国に命じた。一連の裁判で慰謝料を認めたのは初めて。物価データなどの数字の操作がなされた疑いがあると原告側が主張し、重要な争点になっていたが、判決はこの言い分を全面的に認めた。

 裁判が浮き彫りにした厚労省の「手口」とは次のようなものだ。

▼デフレ調整――「生活扶助CPI」という独自の物価指数を専門家(生活保護基準部会)に諮ることなく「創作」、テレビ・パソコンといった価格下落が激しいものの生活保護受給世帯が滅多に購入しない品目をあえて重視する算出を行なった。その結果、08年から11年の3年間で物価が平均4・78%下落したという常識感覚ではありえない異常値ともいうべき大きな数字を出した。

▼ゆがみ調整と「2分の1処理」――低所得者と生活保護受給者の不均衡を軽減する目的で世帯別に調整の増減率を定めた。ここまでは専門家集団である基準部会に諮った。だが「激変緩和措置」の名のもとにその増減率を一律2分の1にする「処理」を秘密裏に実行。結果として本来増額になる世帯がほとんど減額支給になった。

 問題の引き下げ手続きに共通するのが密室性だ。中でも「2分の1処理」は秘密工作というほかない。14年の裁判開始当時、被告の国側はそのことをおくびにも出さなかった。16年6月に『北海道新聞』が情報公開請求で証拠の「取扱厳重注意」文書を突き止めたのが端緒となって発覚した。「年齢・世帯人員・地域差による影響の調整を1/2とし、…」の文句があった。それでも国側は「2分の1処理」をごまかし続け、18年6月になってしぶしぶ認めた。名古屋高裁判決は、判決理由でこうした国の秘密主義をも批判している。

発端は自民の選挙公約?

 生活保護法3条は「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」、同8条2項は「要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない」とそれぞれ規定している。判決は、引き下げはこれらに違反しているとしたうえで「厚生労働大臣には、少なくとも重大な過失があるものと認められ、国家賠償法1条1項の適用上も、違法と評価される」「本件改定は、過去に例のない、大幅な生活扶助基準の引下げを行ったもので、その影響は、生活保護受給者にとって非常に重大なものである」と厳しい表現で述べた。

 原告団は12月1日、厚労省に対して上告を断念するよう要請した。これに対して同省は12月11日現在態度を明らかにしていない。

 12年12月の総選挙で自民党は「生活保護給付水準の10%引き下げ」を公約に掲げ、与党復帰した直後に問題の引き下げが決定された。自民党の圧力に厚労省が屈して、恣意的に数字をいじる「悪事」に手を染めた疑いは濃厚だ。「生活保護バッシング」とはなんだったのか。真相究明は始まったばかりだ。

(『週刊金曜日』2023年12月15日号)

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