都立高で導入の英語スピーキングテストに公費7億円
中止求め住民訴訟
黒坂真由子・ライター|2023年12月21日3:40PM
東京都立高校の入学者選抜として実施された英語スピーキングテスト(ESAT―J)への公金支出の差し止めなどを求めた住民訴訟の口頭弁論が、12月6日に東京地裁(篠田賢治裁判長)で行なわれた。小池百合子都知事と教育庁総務部予算担当課長を被告とし、入試の公平性の破壊、個人情報保護違反などを主張。市民を代表して、武蔵大学教授の大内裕和氏らが法廷に立った。52席ある傍聴席はほぼ満席となり、その中には中学生の姿も見られた。
都教育委員会(都教委)がベネッセコーポレーション(ベネッセ)を事業者に指定のうえ2022年度より英語スピーキングテストを始めたことで、都立高で行なわれてきた入試に民間企業が参入する形となった。大内氏は法廷で「受験しなかった者が『不利にならないよう』配慮するために、ESAT―J受験者が不利になる現象が起こる」と証言。これは都教委が策定した入試制度に起因して生じる「逆転現象」と呼ばれるものだ。
スピーキングテストは毎年2月に行なわれる学力検査(入試)の3カ月ほど前に行なわれ、後の学力検査に加算される。だが同テストは都内在住の公立中学校の生徒しか対象とされておらず、都外在住で都立高を受験する生徒らに受験資格はない。そのため構造的な「不受験者」を生んでしまう。これが入試制度として最初の欠陥だ。
その欠陥をさらに深刻にしているのが、不受験者に仮得点を与える方法である。この仮得点は、2月の学力検査で自身の点数に近い「他の受験生の点数」から算出される。統計の専門家である東京大学名誉教授の南風原朝和氏は11月に出版された『高校入試に英語スピーキングテスト?』(岩波ブックレット)の中で、「専門的、技術的な検討が不十分」であり「不公平性と不合理性は、入学者選抜において許容できるレベルを超えているように思う」と述べている。
テストを止めようと動いているのは住民だけではない。3月には「令和5年度東京都一般会計予算に対する修正動議」 が都議会議員25人から提出されたが、都民ファーストをはじめとする与党の反対多数で否決された。
都は住民監査請求を却下
当初、原告は一刻も早くスピーキングテストを中止させるために訴訟よりも短時間で結果が出る住民監査請求を行なった。ところが住民監査請求における口頭意見陳述を嫌ったのか、都はこれを却下。そのため原告らは司法に訴えなければならなくなった。
原告代理人の大島義則弁護士は「通常、住民監査請求で却下されたものは住民訴訟としても却下されるのですが、今回の件では本来、住民監査請求で却下すべきものではなく、住民訴訟において都の『却下』が適当ではないと裁判所が判断する可能性は相当程度あるでしょう」と語る。
反対の声を無視して11月26日には二度目となる試験が行なわれた。反対する4団体が試験後に合同で行なったアンケート調査には198件もの中学3年生の声が集まり、「まわりの生徒が何を言っているかがわかった(86件)」「(音声遮断のための)イヤーマフが痛い・集中できない(76件)」「単発アルバイトの試験監督による運営の不備(47件)」などの声が報告された。
本来、生徒の声を集めるのは都教委の仕事のはずだ。だが都教委は生徒や当日試験監督をしたアルバイトに対する調査は昨年来一切行なっておらず「解答に影響を与える事例の報告はなかった」との報告や答弁を繰り返すばかりだ。
今年度でベネッセは撤退し、事業者はブリティッシュ・カウンシル(英国の国際文化交流機関)に変わるが、都教委が議会の議決を経ずに6年先までの長期契約を、210億円という法外な価格で交わしたことが問題となっている。
この点について筆者は都教委の瀧沢佳宏・グローバル人材育成部長に問い合わせたが、期日までに返答はなかった。このテストをめぐる問題は、事業者が変わってもおさまることはない。
(『週刊金曜日』2023年12月15日号)