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「『佐高信評伝選』完結」 田中優子
田中優子|2023年12月21日4:23PM
『佐高信評伝選』(旬報社)全7巻が完結した。「金曜日」の社長も務めた佐高信氏は、これまでも「人」に焦点を当て、その生き方や発言や書き方の中から、彼らが時代の権力にどう関わり立ち向かってきたかを詳細に書いてきた。その今まで書いた評伝を選りすぐってできたのが、この全集である。近代の歴史を年表に沿って考えるのも大事だが、そこに一体どんな人間が関わって出来事が起こったのかを知ることは、自分の生き方や言動を振り返ることになる。
第1巻の「鮮やかな人生」では、城山三郎と日本的企業社会に立ち向かった鈴木朗夫を取り上げている。第2巻の「わが思想の源流」では、佐高氏が学んだ久野収、竹内好、むのたけじ、そして福沢諭吉を取り上げている。第3巻の「侵略の推進者と批判者」では、石原莞爾と石橋湛山という、対極の生き方を取り上げた。第4巻「友好の井戸を掘った政治家」では、田中角栄、三木武夫、野中広務など。第5巻「歴史の勝者と敗者」では、司馬遼太郎、藤沢周平という対照的な歴史観と、さらに西郷隆盛を取り上げている。第6巻「俗と濁のエネルギー」では、古賀政男、土門拳、徳間康快。第7巻「志操を貫いた医師と官僚と牧師夫人」では、中村哲、原田正純、佐橋滋、齋藤たまいを、取り上げている。
どれも面白いのだが、今こそ読むべきものは第3巻の「侵略の推進者と批判者」だ。つい先日、ヘンリー・キッシンジャーが亡くなった。佐高氏の石原莞爾論は20年前のものなのだが、そこにキッシンジャーが出てくる。キッシンジャーはヴェトナム和平協定締結の功でレ・ドゥク・トとともにノーベル平和賞に選ばれた。しかしレ・ドゥク・トはこれを拒否した。それについて佐高は「当然だろう。自分の家に火をつけた人間が消火作業に手を貸したからといって、一緒に表彰されるわけにはいかない」と言い放つ。そして「私にはいま、キッシンジャーと石原莞爾が重なって見えてならない」と言う。なぜなら石原は「満洲事変の火をつけ」たからで「放火の罪は消えるものではない」と。この章は「放火犯の消火作業」と題す。何とも痛快だ。
正反対の政治家であった石橋湛山についてもう書く余白がないが、軍拡は何を意味するか湛山から十分に学ぶことができる。戦後政治の堕落の有様も、知ることができる。まさに、今読むべき本なのである。
(『週刊金曜日』2023年12月15日号)