性同一性障害特例法改正へ
「性別変更は命がけ」手術要件の撤廃求め会見
神原里佳・ライター|2023年12月21日4:16PM
出生時に割り当てられた性と性自認が異なるトランスジェンダーが戸籍上の性別を変更するには性別適合手術を受ける必要があると定めた「性同一性障害特例法」の改正議論が進められている。特例法の手術要件には、生殖機能を失わせる「生殖不能要件」と、変更する性別の性器に似た外観を備えなければならない「外観要件」の二つがあり、最高裁が10月に「生殖不能要件」は憲法13条に違反していると判断したためだ。一方、「外観要件」については判断せず、高裁に差し戻しとなった。
トランスジェンダーをめぐっては近年、「心の性を認めると男性が女子トイレや女湯に入れるようになる」などという誤った言説がネットなどで発信されており、違憲判断後、さらにデマやヘイトの声が大きくなっている状況だ。こうした中で11月27日、「LGBT法連合会」が会見を開き、トランスジェンダーに関する正しい知識の周知と、二つの手術要件どちらも撤廃するよう法の見直しを求めた。
追手門学院大学の三成美保教授は、「今回の違憲判断は国際的動向に即したもの」と評価しつつも、「生殖不能要件と外観要件をセットで判断しなかったことは非常に残念。外観要件で求められるのは事実上、トランス女性の性器切除であり、トランス男性は手術の必要はない。一方の性にのみ大きな負担を強いる要件は憲法14条違反」と批判した。
また、トイレや公衆浴場などの問題について、「トランス女性の排除を議論する前に、施設の改善や利用ルールの工夫をすることが先決」と指摘。「自称トランス女性(で実際は違う男性)が女性専用施設に入るのは性犯罪行為。これは刑法や職場の就業規則等で厳正に処罰すべきであり、トランス女性の法的性別変更の問題とは全く無関係だ」と強調した。
戸籍上の性別は男性で、性的適合手術をしていないトランスジェンダー女性の時枝穂さんは、「(病院や選挙の投票所など)性別が記載された身分証を提示しなければいけない時に非常にストレスを感じる」と発言。トイレや公衆浴場をめぐるデマについても「当事者の一人としてとても傷ついている。性別欄のたった一文字の表記で思い悩み、望まない手術をした人や、誹謗中傷を受けてこの社会では生きていけないと命を落とした方もたくさんいる。つながりを求める当事者がSNSやインターネットで安心して発信することができず、孤立している。全てのトランスジェンダーが性自認によって差別されず、自分らしく生きる権利が尊重されるよう、特例法改正を強く望む」と話した。
「女性を守る」は建前 排除を正当化する物言い
トランスジェンダー男性の杉山文野さんも、心身や経済的な負担が大きすぎることから手術をしておらず、公的書類の性別欄は女性だ。「『性自認で気軽に性別変更ができる』などと、あまりにも当事者の現実とかけ離れた意見があるが、性別変更は命がけだ。それに手術するにはお金が必要で、お金のためには就職が必要。就職するには身分証が必要で、身分証のためには手術が必要。この負のスパイラルから抜けられず、常に健康と貧困の問題にさらされているのがトランスジェンダーだ。病院、役所、銀行などあらゆる場面で(自分の性について)説明が必要になるが、毎日毎日、自分のパンツの中身を見ず知らずの人に、時にはカメラの前で説明しなければいけない日々を少しでも想像してみてほしい」と実情を訴えた。
また、LGBT法連合会の野宮亜紀顧問は「法改正すると女性が危険にさらされる」などといった言説について、「トランスジェンダーの排除を正当化するために、『女性と子どもを性被害から守る』という建前をとるところが特徴。歴史上何度もこうした物言いが少数者への攻撃や虐殺に利用されてきた。たとえば関東大震災直後の朝鮮人虐殺も、女性がレイプされるのを防ぐなどの理由で暴力が扇動された」と指摘。「社会に漠然とした不安があるのなら、不安を感じている多数者に啓発促進することで解消すべき。少数者が他の人々と同様に生活する権利を保障されない状況を正当化するために、そうした不安を根拠にすることがあってはならない」と力をこめた。
(『週刊金曜日』2023年12月15日号)