五ノ井里奈さん性被害事件で元陸自隊員3人に有罪判決
卑劣な犯行生む温床とは
滝口信之・『朝日新聞』記者|2023年12月22日1:50PM
陸上自衛隊郡山駐屯地(福島県郡山市)に勤務していた元自衛官の五ノ井里奈さん(24歳)への強制わいせつ罪に問われた元自衛官3人(いずれも懲戒免職)の判決が12月12日、福島地裁であった。三浦隆昭裁判長は「被害者の人格を無視し、性的羞恥心を著しく害する卑劣で悪質な犯行」などとして懲役2年執行猶予4年(求刑懲役2年)を言い渡した。
判決によると、渋谷修太郎(31歳)、関根亮斗(29歳)、木目沢佑輔(29歳)の3被告は2021年8月3日夜、北海道別海町の陸自演習場の建物内で格闘技を使って五ノ井さんをベッドに押し倒し、覆いかぶさって腰を前後に動かし、着衣越しに陰部を接触させるなどわいせつな行為をした。
争点は強制わいせつ罪が成立するか否かだった。初公判で渋谷被告は「腰を振ったのは事実だが、笑いを取るためだった」、関根被告は「腰を振る行為はしていない」、木目沢被告は「覆いかぶさるようになったが、体は触っていない」などと述べ、起訴内容を否認していた。
判決は、五ノ井さんが被害直後に母親に「セクハラ行為に疲れた」などとメッセージを送り、上司の女性隊員に「ベッドに倒されて、覆いかぶさってきた」などと訴えていたと認定。五ノ井さんの公判での証言と一致し、被害直後から一貫しているとした。
「性行為のような体勢で腰を数回振るのを見た」「着衣越しに当たっているように見えた」という元同僚の証言は、具体的かつ詳細であると指摘。弁護側が元同僚の証言について「変遷し、信用性がない」などと主張したことについては、元同僚が被告らに不利な証言をする動機もないと指摘。五ノ井さんと元同僚らの証言は整合し、信用できるとした。
渋谷被告は腰を振る行為は性的な意味はなく「笑いを取るためだった」と主張したが、判決では「性行為を連想させ、社会通念に照らし、性的意味合いが強いのは明らかだ」などとして弁護側の主張を退けた。
判決を受け、五ノ井さんは「事実を認め、反省してほしいとの思いで闘ってきた。笑いを取るため、では許されない。(被告らには)罪にしっかり向き合ってほしい」と述べた。そのうえで、性被害を訴える難しさも述べた。「なかなか声を出せず、闘えない人もたくさんいる。前例を作れたので、おかしいものはおかしいとどんどん声を上げてほしい」と語った。
「上司から言われて」謝罪
事件をめぐっては、強制わいせつ容疑で書類送検された3人について、福島地検郡山支部22年5月、不起訴処分(嫌疑不十分)とした。五ノ井さんは同年6月、ネットなどを通じて被害を告発し、同年9月、郡山検察審査会は不起訴となった3人について「不起訴不当」と議決。23年3月、福島地検は3人を強制わいせつ罪で在宅起訴した。
判決が有罪を導いた根拠の一つに、元同僚らの証言がある。
「当初は被告らをかばう供述をしたが、女性を傷つけていることに疎かった。後悔し、正直に話すようになった」
「別部隊に異動し、本件の異常性、重要性に気づき、問題解決のために話すようにした」
元同僚らは当初、検察の捜査や防衛省の調査で虚偽の回答をしていた。だが、五ノ井さんが実名で告白したことで、証言を決意したと明かした元同僚もいた。
3被告は22年10月、防衛省の仲介で五ノ井さんと面会して謝罪したが、3被告は被告人質問で、謝罪が自らの意思ではなく、防衛省側からの指示を受けたものだったと明らかにした。
渋谷被告は「土下座してくれと言われた」、関根被告は「行きたくないと断ったが、自衛隊のトップが頭を下げているのだから、謝りに行くよう上司から言われた」、木目沢被告は「声や表情、態度で反省しているように見せるようにと。土下座してくれと言われ、土下座もさせられた」などと述べ、面会に備えた想定問答集があったとも述べた。
(『週刊金曜日』2023年12月22日号)