「障害者福祉のドン」北岡賢剛氏めぐるハラスメント訴訟
セクハラメールの中身とは
小川たまか・ライター|2023年12月22日2:30PM
社会福祉法人グロー(滋賀県近江八幡市)の前理事長、北岡賢剛氏を被告としたセクシュアルハラスメント訴訟(本誌2020年12月25日号で詳報)の本人尋問が12月11日、東京地裁で行なわれた。北岡氏が初めて出廷するため注目度が高く、傍聴席は満席となった。
同法人は滋賀県を拠点に障害者アート事業などを行ない、北岡氏は「障害者福祉のドン」「天皇」と呼ばれるほどの知名度だった。
原告は19年までグローの職員だった鈴木朝子さんと、北岡氏が理事を務めていた社会福祉法人愛成会(東京都中野区)で現在も幹部を務める木村倫さん(どちらも仮名)。2人はそれぞれ出張中の北岡氏からホテル内で体を触られるなどの性被害や、性的な内容を含むメールの送付があったこと、長期にわたりセクハラやパワーハラスメントが常習的に繰り返されてきたことなどを訴え、20年末に北岡氏とグローを提訴。計約5250万円の損害賠償を求めている。
木村さんは12年9月、東京出張中の北岡氏らとの懇親会に出席後、気がつくと北岡氏が宿泊するホテルの部屋のベッドに上半身裸で横たわっていたと訴えている。
一方、北岡氏は本人尋問で、ホテルの部屋の中で「うれしくて気持ちが高揚」し、木村さんに向かって「脱ぎますか?」と聞いたところ、木村さんが自分で服を脱いだと主張した。
木村さんは前回行なわれた本人尋問で、自身は性的マイノリティであり、北岡氏の前で自ら服を脱ぐことはあり得ないと主張している。木村さんは性的マイノリティであることをこれまで一部の人にしか明かしておらず、訴訟の中で北岡氏に対して明かすことは苦渋の決断だったという。
鈴木さんは14年、東京出張中だった北岡氏が複数の関係者をホテルの部屋に招いた「部屋飲み」の後、打ち合わせのために残るように言われ、その場で体を触ったり、下着の中に手を入れるなどの行為があったと訴えている。
これについて北岡氏は、キスをしたが鈴木さんが嫌がるそぶりがなかったため「受け入れられていると思った」と主張。体を触ったり下着の中に手を入れたりする行為は行なっていないと主張した。
原告代理人からの「気持ちが高揚して、なぜ部下に『脱ぎますか』と聞くのか」との趣旨の質問には「私自身もよくわからないが、そういう気持ちになったことを嘘をつかずに話した」と答え「(木村さんの)才能をリスペクトして愛着や好意を持っていたので、僕にできることがあれば役に立ちたいという気持ちがあった」と続けた。
「僕なりのユーモア」?
裁判前に木村さんから内容証明を送った際に、北岡氏が木村さんから服を脱いだという主張をしていなかったことについて問われると「(当時の代理人と)相談して進めていた」と答えた。
木村さんに対して「(木村さん)の人柄と体が好き」「抱き上げ、成功率は、何パーセント?」「好きですからね。きみは?」「セックスが終わったら連絡ください」「(木村さん)が欲しい」。鈴木さんに対して「恋人気分でお願いします」といったメールを送っていた理由については「僕なりのユーモア」「当時はシャレでこういうメールを送ることがあった」と繰り返し「ハラスメントであると反省している。(当時は冗談のつもりだったが)今はそう思います」とも述べた。
鈴木さんと約29歳の年齢差があった点や上司と部下という関係だったことから、行為について「強制という認識はなかったのか」と問われると「ないです」と答えた。
この日はグロー現理事長の牛谷正人氏も証人として出廷。被告代理人からの質問に、北岡氏が宴席などで下ネタを言うことはあったが職員たちの拒絶反応はなかったと証言。「(グローは)比較的率直に意見を交わし合える場」で若手が北岡氏に意見をすることもあり、萎縮するような雰囲気はなかったなどと述べた。原告代理人から「組織で一番上位の北岡氏の言動を下位である女性が指摘できたと思うか」との問いには「はい」と答えた。訴訟は来年に続く予定。
(『週刊金曜日』2023年12月22日号)