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大川原化工機事件国賠訴訟、東京地裁が警察・検察の違法性を断罪
粟野仁雄・ジャーナリスト|2024年1月15日7:53PM
「裁判官の判断としては適切と思います」(大川原正明社長)
「警察の違法(認定)は当然。検察の違法を認めてくれて嬉しい」(元役員の島田順司氏)
軍事転用できる機器を不正に中国と韓国に輸出したとされ、大川原化工機(横浜市都筑区)の社長ら3人が外為法違反の容疑で逮捕・起訴され、後に起訴が取り消された冤罪事件に判決だ。
同事件では2020年3月の逮捕後に11カ月間勾留された大川原社長(74歳)と島田氏(70歳)、7カ月間の勾留が原因で病死した相嶋静夫氏(当時72歳)の遺族が21年9月に国(検察庁)と東京都(警視庁)に計約5億6000万円の支払いを求め国賠訴訟を提起。昨年12月27日の判決で東京地裁(桃崎剛裁判長)は警視庁と東京地検の違法捜査を認め、約1億6000万円の支払いを命じた。
警察側が当初問題視した噴霧乾燥機は液状の素材を高温の容器内に噴射して粉末化する装置。医薬品や粉末コーヒーなどの製造にも使われるが、操作者が炭疽菌など危険な細菌に曝されずに扱えれば生物兵器に転用できるとされる。
これを警視庁公安部は「大川原化工機の噴霧乾燥機は熱風で殺菌・滅菌でき、生物兵器として扱えるので違法」とした。同社の製品は熱風を吹き込んでも温度が上がり切らず、細菌は死滅しない。しかし「経済安保」が叫ばれ噴霧乾燥機が輸出貿易管理令の輸出規制対象品目に加わったことで、警視庁は同製品トップメーカーの同社に目を付けた。管理令の文言の曖昧さも利用し、不正輸出にあたるとして3人を逮捕。事件は大きく報道され会社は信用を失い、売り上げは4割も落ちた。
だが21年7月、東京地検は突然起訴を取り消した。東京地裁が求めた、経済産業省と警視庁の打ち合わせ記録の証拠提出期限直前、初公判の4日前だった。
謝罪も拒否した担当検事
国賠訴訟では昨年6月の証人尋問で公安部の現職警部補が「捏造です」と暴露したが、判決は「捏造」には触れず、「捜査不足」なのに公訴提起したのは違法だとした。とはいえ検察官の違法捜査も認めたのは異例だ。桃崎裁判長は安積伸介警部補(現警部)による島田氏への取り調べを厳しく指弾。「殺菌の解釈をあえて誤解させ(中略)供述調書に署名捺印するよう求めた。偽計を用いた取り調べで違法」とした。同警部補は島田氏が修正を求めた供述調書もパソコンで修正したように見せかけたほか、防衛医科大学校の四ノ宮成祥学校長(細菌学)の参考人聴取でも、四ノ宮氏が言っていないことを立件に都合よく捏造した形の報告書を作っている。
起訴した塚部貴子検事も証人尋問で「同じ状況なら起訴する」として謝罪も拒否した。同検事は大川原化工機に派遣した複数の部下の検事から「温度が上がりにくい部位がある」と報告を受けながら放置。これについても判決は「再度温度測定していれば規制対象外と容易に把握できた。(中略)必要な捜査を尽くしておらず違法」と断じた。同検事は情報不足を言い訳にしたが、原告側代理人の高田剛弁護士は社員らが録音した部下の検事とのやり取りを証拠提出し、その「嘘」も暴いている。
判決後の記者会見で島田氏は、「上司の命令に盲従して逮捕に走り、それでいいのかと振り返らない人がいたことに驚いた。法に触れるか否かではなく社会背景や政治状況を背景に起訴してしまう恐ろしさを感じました」と話した。
噴霧乾燥機を自ら設計し、その性能に最も詳しかった相嶋氏は勾留中に悪性腫瘍が発見され胃がんが進行。高田弁護士が勾留停止を8回も求めたがすべて却下され、勾留停止で入院した時は手遅れとなり21年2月に死去。起訴取り消しを知ることなく「被告人」のまま無念の思いで生涯を閉じた。会見で相嶋氏の長男(50歳)は「父が逮捕された時、娘は泣いたんですよ」と言葉を詰まらせた。「父は子どもよりスプレードライヤーを愛していた。違法行為を行なった警察官には刑事責任を負わせてほしい」と悔しさを滲ませた。
(『週刊金曜日』2024年1月12日号)
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