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北朝鮮女性の現状と人権考えるセミナーが大阪で開催

石丸次郎・ジャーナリスト/アジアプレス|2024年1月19日3:26PM

 昨年12月16日、大阪市内で「北朝鮮体制下の女性の現状と人権」と題されたセミナーが開催され、脱北者と在日コリアンの女性が自身のつらい体験と思いを語った。50人弱の市民が参加した。

12月16日、北朝鮮女性の窮状について語る朴香樹さん(左)とリ・ソヨンさん。(撮影/石丸次郎)

 第1部では韓国在住の脱北女性、リ・ソヨンさんが講演。1月中旬封切りのドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』にリさんが出演していることもあり、多くのメディアが取材に訪れた。

 リさんは北東部の会寧市の出身。「国のために尽くしたい」と朝鮮人民軍に志願し17歳から10年近く服務した。「部隊内では男性上官による若い女性兵士への性暴力は日常茶飯事。規則違反だが、発覚しても女の方が誘ったことにされるなど、もみ消されることがしばしばだった」という。結婚後は夫の暴力に苦しんだ。「男は統制社会で受ける強いストレスを、家族を殴って発散させる」と振り返った。

 リさんは2008年に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を脱出して韓国入りを果たした。11年後、6歳の時に離別した息子を脱北させることを決意。ブローカーに大金を払い、鴨緑江からの越境には成功したが中国公安に逮捕され、強制送還されてしまったという。息子はその後、政治犯収容所に送られたと伝え聞いた。

「私は息子を苦しめることになった罪深い母です。日本のみなさんにも金正恩政権の人権侵害に抗議の声をあげていただきたい」と落涙しながら語った。現在、リさんは脱北女性の権利擁護のためのNGO「ニューコリア女性連合」の代表を務めている。

 第2部に登壇した朴香樹さんは在日コリアン3世だ。自身と兄姉妹は幼稚園から高校まで神戸の朝鮮学校に通った、本人曰く「総聯バリバリの家庭でした」。北朝鮮には1967年に17歳で単身帰国した叔父の都碩根さんが住み、朝高3年生の時に修学旅行で初訪朝した際には元山の叔父の家にも泊まった。「初めて会う3人の従弟たちが私によく似ていた」と語る。

 叔父一家に異変が生じたのを知ったのは、96年8月に母と一緒に訪朝した時だった。叔父の姿だけがなく、家族は憔悴している。連行されてから半年が経ったと言う。日本に戻った後、朴さん一家は八方に釈放を働きかけたがかなわず、従弟ら残された家族の消息も完全に途絶えたのだそうだ。

新たな人権ムーヴメント

 朴さんは99年に結婚して韓国で暮らし始めた。2000年代半ばから多くの脱北者が韓国に入国し、北朝鮮の深刻な人権状況について語り始めた。叔父と元山で親しかった男性が脱北してきて、叔父が政治犯として逮捕され拷問の末に亡くなった顛末を聞いた。

「いつか私の従弟たちが脱北してくるかもしれない。今何かしなければと考えて人権ボランティアを始めました」と朴さんは述べた。

 セミナーを主催した洪敬義さんは朝鮮総聯(在日本朝鮮人総聯合会)の幹部活動家だった。02年9月に金正日総書記(当事)が日本人拉致を認めたことに衝撃を受け、総聯の民主化を求める提言を公表し波紋を起こしたが、総聯は洪さんを韓国のスパイ呼ばわりし除名した。20年前に総聯を内側から変えようとして果たせなかった洪さんは現在64歳。セミナーの目的を次のように説明した。

「北朝鮮には9万人超の在日と日本人家族が帰国事業で渡りました。脱北者も家族を残しており、拉致被害者もいますが、多くが会うことすらできないままです。北朝鮮の庶民は人権蹂躙に苦しんでいる。日朝の家族が再会するには、北朝鮮の人権改善が必須です。そのための新しいNGOを設立します。セミナーはその旗揚げです」

 新NGOの名前は「フリートゥームーブ」。自由往来の実現こそが人権改善の指標、基本だと考えた。在日、日本人、ニューカマー、脱北者など多様なメンバーで構成し、国際活動を目指す。登壇した朴さんはソウル近郊で子育て中だが、「フリートゥームーブ」の共同代表に就く。境界を跨ぐ新しい北朝鮮人権ムーヴメントが、大阪から始まろうとしている。

(『週刊金曜日』2024年1月12日号)

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