太平洋戦争中の学徒出陣から80年
「わだつみ会」が訴える「絶対不戦」
竪場勝司・ライター|2024年1月19日5:13PM
昨年は太平洋戦争中の学徒出陣から80年、日本戦没学生記念会(わだつみ会)が2023年12月16日、東京都文京区で「不戦のつどい」を開催した。岸田文雄政権が進める戦争準備行為と改憲をやめさせ「絶対不戦」を守り抜く声明を発表。同会理事の安川寿之輔・名古屋大学名誉教授が「いま、なぜ、『学徒出陣』なのか~『学徒出陣』80年の歴史的意味を考える~」のテーマで講演した。
わだつみ会は戦没学生たちの手記『きけ わだつみのこえ』の出版を契機に、1950年4月に結成され、一貫して反戦平和の運動を展開。アジアに対する侵略戦争における日本の加害責任の問題や、天皇制の戦争責任の問題も問い続けてきた。
オンラインも含めて約100人が参加した集会では、冠木克彦理事長が声明を発表した。声明ではロシア・ウクライナ戦争やイスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区への侵攻などの情勢に触れたうえで、敵基地攻撃能力の保有をうたった「安保関連3文書」の撤回を求め、憲法改悪の動きへの反対を表明。「わだつみ会は戦没学生の自由と平和への遺念を引き継ぎ『新しい戦前』といわれる軍備強化に反対します。いかなることがあろうと『絶対不戦』の立場に立ち『不戦の意思』を守り抜くことを訴えます」と強調している。
講演で安川さんは『きけ わだつみのこえ』を「死を目前にした酷薄な状況の中で、日本の少数の学生兵たちが最後まで鋭敏な心と明敏な知性を失うまいと必死に努めていたことを示す貴重な記録」と評価。他方、同じ枢軸国のドイツとイタリアの学生・青年たちが残した『白バラは散らず』『イタリア抵抗運動の遺書』と比較すると「違いはあまりに大きい」とも指摘した。端的な違いとしては、日本の学生兵が銃口をアジアの民衆と連合軍に向けながら戦争目的が分からず「一体私は陛下の為に銃をとるのであろうか、或いは祖国の為に……か」と悶えているのに対して、ドイツ・イタリア両国の学生・青年たちの銃口はファシスト勢力に向けられており「お母さん、僕は理想のために処刑されるのです。……。イタリアの自由万歳!」(22歳)と、闘いの目的も自明であったことを挙げた。
「良心的兵役拒否」知らず
続いて安川さんは日本における「超希薄な戦争責任意識」についても言及。20世紀において君主の下で戦争を始めて敗れた国の大部分では君主制が廃止されたことを踏まえて「私たちは、米軍による(占領政策の都合上の)天皇裕仁の戦争責任の免責が、世界史的には唯一の異例な出来事である事実を、恥じる思いで認識する必要がある」と強調した。
また、敗戦後のイタリア・ドイツが侵略戦争推進時の国旗・国歌を改めたのと対照的に日本は99年に国旗国歌法を制定。侵略戦争のシンボル「日の丸」と天皇治世賛美の「君が代」を保持し続けていることも指摘。ドイツとイタリアでは侵略戦争遂行に全面協力した戦時中の新聞は基本的に戦後すべて廃刊となったが「日本ではそうした責任追及はまったくのように行なわれなかった」と述べた。
講演の終盤、安川さんは、89年以来30年以上続けている、日本の大学生を対象としたアンケートの結果を紹介した。
「ドイツとイタリアでは戦後(侵略戦争を反省して)国旗と国歌を改めているという大変重要な事実を、高校までに学校で教えられたことがありますか?」との質問に「ある」と回答した比率は最大でも1割しかなく「9割以上の日本の学生は、戦争責任問題を考えるうえでの重要な知識をそもそも奪われている」と指摘。第1次世界大戦以来の貴重な「良心的兵役拒否」の思想と運動について「学校で教えられたことがある」と答えた学生も1割に満たず、9割以上の学生が、それについて無知な状態であることがわかったという。
戦争放棄の憲法9条を持つ日本の青年に「良心的兵役拒否」の思想と運動を伝え教えることは「大事な教育内容だ」と、安川さんは講演の最後に訴えた。
(『週刊金曜日』2024年1月19日号)