リニア工事残土処分場問題、岐阜県御嵩町の新町長が「一部」受け入れ容認
井澤宏明・ジャーナリスト|2024年1月19日5:26PM
岐阜県御嵩町でJR東海が計画するリニア中央新幹線の残土処分場受け入れの是非をめぐり、町がスタートさせた審議会が異例の展開を見せている。委員の大半に受け入れに否定的な町民を集めた一方で、審議の途中で町長が「一部受け入れ」を容認するような発言をし始め不信を招いているのだ。
この残土処分場計画はこれまでも迷走を重ねてきた。JR東海は2本のトンネルから出る残土約90万立方メートルを掘削口に近い山林の谷間に処分する計画だ。うち「健全土」約40万立方メートルを民有地と町有地(候補地A)、カドミウムやヒ素などの重金属を基準値以上含む「有害残土」(同社は「対策土」「要対策土」と呼ぶ)など約50万立方メートルを町有地(候補地B)に埋め立てるという。
当初は「健全土」だけの計画だったが2019年8月、JR東海が「有害残土」持ち込みを打診すると当時の渡邊公夫町長は拒否。21年9月、渡邊町長が「受け入れを前提として協議に入りたい」と一転表明、反対の声が強まった。
同町は事態を打開しようと22年5月から、有識者を交えてJR東海と協議する「公開フォーラム」を始めた。しかし同年10月、残土処分場候補地のある「美佐野ハナノキ湿地群」が環境省の「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」(重要湿地)に指定されていることを、同町と同社が町民に伏せ続けてきたことが報道で明らかになるなどしてフォーラムは頓挫。渡邊町長は23年6月の町長選に出馬せず、受け入れ是非の判断を新町長に「丸投げ」してしまった。
同年7月に就任した渡辺幸伸町長は、前町長の「受け入れ前提」方針を「白紙のゼロベース」に戻すと表明し審議会を設置。委員は同湿地群を重要湿地に推薦した研究者や候補地変更を求める「日本野鳥の会」メンバー、有害残土持ち込み反対決議をした地元の「残土を考える会」の町民など全14人のうち9人を「反対派」が占めた。
23年11月に始まった審議会だが、12月3日に開かれた第2回会合は早くも大荒れに。JR東海の担当者が、候補地Aの大部分を占める民有地を25人の地権者全員から取得済みであることを明らかにしたからだ。しかも、買い取りは受け入れの是非を話し合うフォーラム開催中に始まっていたという。
さらに、渡辺町長が「候補地Aは(JR東海の)自社用地であることから、計画の全否定だけでは交渉はきわめて困難。代替案や具体的な提案が必要だと考えている」と述べたために委員らは猛反発。「『ゼロベース』で意見を言ってくださいと町長からの推薦で(委員を)引き受けたが、話が違う」などと町に激しく迫った。
有害残土は拒否の方針
途中退席し報道陣に囲まれた渡辺町長は、11月28日にリニア中央新幹線建設促進岐阜県期成同盟会(会長・古田肇知事)が丹羽俊介JR東海社長に要望書を提出した席で、同社から「他のところで(土地を)探すのは、事業スケジュールなどを考えるとなかなか難しい」と伝えられた、と告白した。
JR東海の「やり得」を追認するかのような町長の発言だが、同社の担当者は筆者の取材に「手順を踏んで調査をして契約という手続きに入っていったのが、たまたまフォーラムの時期と重なっているだけ」と悪びれる様子もない。
会合の終盤、病欠の委員の推薦だとして「連合岐阜」元会長を委員に加えると同町が唐突に示したことも「審議の状況で人を増やすのか」と委員のひんしゅくを買った。
12月17日に開かれた第3回会合では早々に「有害残土」受け入れ拒否の方針を決めた審議会。年度内に町長に答申する過密スケジュールだが、町長の意向を受け入れるよう委員の1人が他の委員らに電話で働きかけていることが発覚するなど(当の委員は筆者の取材に「してません」と否定)不穏な動きも後を絶たない。
国際NGOのWWFジャパンが12月20日に声明を出すなど多くの環境保護団体や学会も重要湿地保全を求めている。衆目を集める中、審議会が後世に恥ずかしくない判断を下せるか否か注視したい。
(『週刊金曜日』2024年1月19日号)