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「そばにいる人の声の重み」崔善愛

崔善愛|2024年1月19日3:59PM

崔善愛・『週刊金曜日』編集委員。

 1月3日、86歳で他界した叔父の告別式に参列した。叔父が籍を置いた在日韓国教会では式の終わりに、妻や姉妹がいても長男が「親族代表の挨拶」をすることが多い。この日もそうだった。

 29年前、やはり在日韓国教会の牧師だった父が亡くなったときも、親族代表の挨拶は母ではなく兄だった。なぜなの? 2人に問うたが無言だった。家父長制的な考えは今も社会を支配しているが、神の前の平等を説くキリスト教会でも、改革の声が内部から上がっていてもその歩みは遅い。

 昨秋、友人でフランス在住のマキシム・ドビオン神父に疑問を呈した。

「カトリック教会の神父にはなぜ、女性が認められないのでしょうか」

 マキシム神父は、「イエスの12人の弟子が全員男性だったからと言われています。この問題は長年にわたり、バチカン教会内でも議論が紛糾したものの、ある時点で打ち切られました。それは、あるべき姿ではないと思っています」と話された。

 大学で人権論を担当して10年になるが、学生たちのジェンダー意識は驚くほど進み、教えられることが多い。考えてみれば、トランスジェンダーや同性愛者はいつだって「存在」していたのに、私自身、そのことに気づいたのは、そういう友人を持ってからだ。そばにいる、沈黙を強いられてきた人の声はとても重い。

 昨年、『ハンチバック』で芥川賞を受賞した市川沙央さんは人工呼吸器を必要とする重度障害者だ。作品にある「妊娠と中絶がしてみたい」――には衝撃を受けたが、その真意は社会への痛烈な批判だった。

 旧優生保護法は1996年の法改正で優生思想に基づく障害者への強制不妊手術の規定などはなくなり、「母体保護法」に名前は変わったが、出生前診断で胎児が障害を持つ可能性がある場合、「経済的理由」を適応理由に人工妊娠中絶が許容されているのが実情だ。産むか産まないか、その決断は、とくに女性の意思が尊重されなければならない。『ハンチバック』を読み、障害者、そして妊娠と中絶について考えさせられた。

 市川さんはあるメディアでこうも語る。

「『障害者』というカテゴリーは近代社会から発生したもので、人間そのものとは何の関係もない。効率化のために排除しているだけ。あくまで人間の勝手な考えで分けているだけなので、変えていけたらいい」

(『週刊金曜日』2024年1月19日号)

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