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相模原市の人権条例案“骨抜き”に障害者失望 
「こんな条例いらない」

石橋学・『神奈川新聞』記者|2024年1月30日6:36PM

 差別をなくすための画期的な答申が出され、実現が期待された相模原市人権尊重のまちづくり条例だが、失望と批判が拡大している。市がまとめた条例案の骨子では罰則が削られるなど答申内容を骨抜きにし、差別を本気でなくす姿勢がまったく見えないからだ(※)。

1月5日、本村賢太郎市長との面会を求めて相模原市役所に集まった全国公的介護保障要求者組合メンバーら。(撮影/石橋学)

 同条例案に対しては障害者団体や人権団体が相次いで修正を求める事態になっており、あまりの後退ぶりにマイノリティの当事者からは「かえって害悪で、このような条例なら作らないほうがいい」という厳しい非難も広がり、条例を定める意味が根底から揺らいでいる。

 1月5日、市長室のある相模原市役所庁舎2階のロビーを、電動車いすに乗った重度障害者約20人が埋めた。生活の場を施設から地域へ移行させるよう訴えている全国公的介護保障要求者組合のメンバーだ。

「条例案骨子ではやまゆり園事件が反省されておらず、障害者はいらないと考える人がかえって増えそうで怖い。禁止されるヘイトスピーチも外国人を対象にしたものに絞られている。障害者を置き去りにしないでほしい」

 三井絹子委員長はそう訴えた。

 市人権施策審議会が昨年3月にまとめた答申は多くのマイノリティに希望を灯す内容だった。人種や民族、国籍、障害、性的指向、性自認、出身を理由にしたヘイトスピーチに幅広く罰則を科し、被害救済を目的に独立した人権委員会を設けるなど、先駆的な取り組みが盛り込まれていた。

 ところが11月に公表された条例案骨子は答申をほとんど反映していなかった。象徴的なのが2016年7月に市内で起きた津久井やまゆり園事件に関する条例前文での記述。答申では障害者ら45人が殺傷された事件を「差別的思考に基づくヘイトクライムであり容認できない」と非難していたが、骨子ではただ「大変痛ましい事件」と表記しただけ。差別と向き合わない市の腰の引けた姿勢が分かりやすく映し出されている。

無理解を露呈した市の説明

 同じく障害者団体のDPI日本会議も昨年12月8日、市幹部と面会。白井誠一朗事務局次長は「やまゆり園事件が起きた相模原市だからこそ一歩進んだ仕組みが作れると期待している。答申に基づいた条例を強く求めたい」と語った。

 だが同市の榎本好二市民局長は「罰則を設けるとそのつもりがなくても言ったことが悪く取られ、処罰されてしまう心配がある」と筋違いに「表現の自由」を持ち出すありさま。答申では規制が逸脱しないよう勧告、命令、刑事告発と段階を踏むことにしてあり、答申すら理解していないのではと疑わせるとんちんかんぶりだった。

 白井氏は説明にならない説明を繰り返す市の態度に想像以上の無理解とずさんさを感じ、DPIのホームページにこうつづった。

〈この「骨子」のまま条例化されてしまうことは悪しき前例を作ってしまうことになりかねず、「これなら条例を作らない方がいいのでは」という思いを感じざるを得ませんでした〉

 この日は人権NGO「外国人人権法連絡会」の師岡康子弁護士と特定非営利活動法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平共同代表理事も、揃って申し入れを行なった。

 師岡弁護士は「このままでは画期的な答申が出ても無視をして、ヘイトスピーチを規制しなくてもよいという悪い前例になってしまう」と憤りを隠さない。

「やまゆり園事件があった相模原市で差別的言動を禁止もしないというのであれば、作らないほうがましだ。未曽有のヘイトクライムまで起きた相模原市でできなければ、他のどの自治体でもできない」(師岡弁護士)

 当事者や有識者からのかつてない辛辣な批判にもかかわらず、本村賢太郎市長は2月開会の市議会に案を示すことを表明している。前文の書きぶりを修正する程度でお茶を濁すつもりのようで、反差別法制の画期をなす条例づくりの好機を、自ら台無しにする愚策が極まろうとしている。

※市人権施策審議会の答申については本誌の昨年4月7日号、その後に市が示した条例案骨子については同12月1日号で詳報。

(『週刊金曜日』2024年1月26日号)

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