『パラサイト』出演俳優自殺でポン・ジュノ監督らが警察、マスコミを厳しく批判
朱玹佑・大学院生|2024年1月30日6:41PM
違法薬物使用の疑いで韓国の仁川警察庁の調査を受けていた韓国人俳優、イ・ソンギュンさんが自殺した事件で、イさんが出演し、アカデミー賞作品賞にも輝いた映画『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督らが声明を発表。警察とマスコミを批判し、真相究明と再発防止を求めた。
29の文化芸術関連団体が結成した「文化芸術人連帯会議(仮称)」(以下「連帯会議」)が1月12日、ソウル市で声明を発表した。『パラサイト 半地下の家族』に出演した俳優のソン・ガンホさんら2000余人の文化芸術人が賛同者として署名している。
仁川警察庁がイさんを違法薬物使用の嫌疑で立件したのは昨年10月。『ハンギョレ新聞』電子版(昨年12月27日付)によると、警察は「イさんと違法薬物を用いた」とする風俗店従業員の陳述を得たが、イさんは調査で「何かを投薬したことはあったが、違法薬物だとは知らなかった」と嫌疑を否定した。同紙は、警察がイさんの嫌疑を立証するために精密検査を行なったが、違法薬物の陽性反応は出なかったと報じた。
イさんの遺体が発見されたのは昨年12月27日。イさんが3回目に警察の調査を受けてから3日後だった。仁川警察庁の金熙中庁長は翌28日のブリーフィングで「捜査は適法だった」と主張。しかし、警察が物証なしに陳述のみで無理な捜査を進めたという批判が起こった。特に批判されたのは、イさんの嫌疑が立証されなかったにもかかわらず、警察の調査内容などがメディアにリークされた点だった。2カ月に及ぶ調査の過程で3回の召喚調査を受けたイさんは、出頭する姿がすべてマスコミにさらされた。
公営放送局のKBSは昨年11月24日、イさんと風俗店従業員との会話の録音内容を公開し、捜査の具体的な内容も報じた。これに対して「連帯会議」は「警察捜査の機密保持に何の問題もなかったのか。関係者たちの徹底的な真相究明を求める」と指摘。「KBSのスクープ報道には多数の捜査内容が含まれているが、どのような経緯と目的で提供されたのか明らかにするべきだ」と主張した。
速やかな記事の削除を
声明は事件を報じたマスコミの姿勢も批判した。KBSは放送で「2人の関係を推定できる内容」として、イさんと風俗店従業員の会話内容を報じた。しかし、その内容は違法薬物使用とは無関係で、俳優のプライバシーを侵害する可能性があるものだった。
一方、イさんの死亡が確認された当日、「TV朝鮮」はニュース番組とネットでイさんの「遺書」の一部を公開したが、イさんのマネジメントを担当したHODU&Uエンターテインメント社は1月2日、SNSを通じて「虚偽の内容を真実のように報道した記者を告訴した」とし「出典が確実ではない、あるいは事実確認のないまま報道されたすべての記事、そしてオンライン上のすべての掲示物に対して修正と削除を要請した」と発表した。その後、「TV朝鮮」はネットから記事を削除した。
「連帯会議」の声明はメディアの報道に対して「国民の知る権利のための公益的な目的で行なった報道だったのか」と指摘。「KBSをはじめ、すべてのメディアは報道の目的に合わない記事を速やかに削除するべきだ」と表明した。
同声明は政府と国会に対しても、「刑事事件(捜査内容)の公開禁止と、捜査に関する人権保護のための現行法に問題はないのかを点検し、必要な法律の制定・改定作業を始めるべきだ」と要請。
「オーマイニュース」1月12日付によると、KBSは「連帯会議」の声明に対し反論を提起。報道は「事件の実態を明らかにするための多角的な取材と検証の過程を経ており、内容は最大限節度を守っている」としたうえで「KBSの報道は、イさんが死亡する1カ月前であり、報道と死亡を関連づけるのには無理がある」と主張した。
(『週刊金曜日』2024年1月26日号)