共同親権導入問題、法務省が今国会に民法改正案提出へ
吉永磨美・編集部|2024年2月13日3:56PM
離婚後の親権のあり方などを検討している法制審議会(法務大臣の諮問機関)の家族法制部会は1月30日、婚姻中の父母と同様に離婚後も共同親権を持続することが可能となる民法改正の要綱案を取りまとめた。離婚後の親権については父母の協議で単独・共同のどちらかを選べるようになるほか、必ず払うべき「法定養育費」の創設や子と親の面会交流についても、現在は対象外である祖父母ら親族の申し立てを認めることとなった。同日の部会には委員21人が要綱案の採決に参加。3人が反対したが、5項目の付帯決議を付けたうえで多数決で承認された。
審議会後の記者会見では要綱案に反対した委員らが「DV(ドメスティック・バイオレンス)防止法との矛盾が解決されていない」「DV被害を受けた親が加害親から逃げて身を隠す道筋が示されていない」と不備を指摘した。
同日の審議会開催前には弁護士約400人が法務省に反対を申し入れた。司法書士会も反対声明を出すなど、反対する声は根強い。要綱案は今後2月の法制審総会を経て法相に答申された後、政府が改正案として国会に提出する予定。共同親権をめぐる白熱した議論が、舞台を国会に移した形で続くことが予想される。
要綱案では、未成年の子に対し親が権利と義務である「親権」を子の利益のために行使しなければならないことを明記。親権は父母が共同で行なうと定めたが、監護や教育に関する日常行為については単独で行使できたり、父母の協議が決裂した場合は家庭裁判所が父母の求めに応じて単独で行使できるよう定めることができる。
導入をめぐり物議を醸した離婚後の「共同親権」導入については、離婚後に父母のどちらか一方が単独で持っていた親権を、協議次第で父母の両方が持てるようになると定めた中身となっている。出生前の子や、父親が認知した子についても、父母の協議次第で共同親権とすることが可能になった。
他方、進学や病気などの重要事項に関しては父母が話し合って決めるが、窮迫な事情がある場合や、看護や教育に関する日常の行為への親権の行使は単独で行なえるとした。また、DVや虐待などのケースでいずれかの親の関与が「子の心身に害悪を及ぼすおそれ」がある場合は、家裁が父母の一方に親権を定めることとなった。
導入による弊害への懸念
このDVや虐待があるケースをめぐっては、現行の制度では被害者の保護が十分ではないとする懸念の声がある。制度の不備を指摘する弁護士有志や全国青年司法書士協議会、離婚親や家事事件を扱う弁護士などで作る「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」(代表世話人=熊上崇・和光大学教授)は、要綱案に反対する声明を同日に出した。
同声明では、共同親権が導入されれば子どもの進学・医療、保育、住む場所の決定に父母の双方の許可が必要な制度となり、一方の親が合意しなければ保育園の入園や医療などを受けられず、家裁の判断に委ねる結果になると指摘。離婚後も長期間にわたり両親の争いの下に置かれる子どもの精神負担は計り知れないことなど、導入による弊害を指摘している。
また、共同親権の導入をめぐり両親の意見が一致せず、家庭裁判所がそれを決定する場合、身体的・精神的・経済的・性的DVがあるケースでも、証拠不十分で立証に失敗した結果として、共同親権になる可能性が高まるとも指摘。「その結果(認められなかった)DVケースで離婚後も子どもと同居親を加害者が支配することを許容する制度となる懸念が払拭できない」と、同委員会は訴えている。
前記法制審議会については議事のあり方について疑問視する声が数多く出ている。22年11月の中間試案に関し実施されたパブリックコメント(22年12月6日~23年2月17日実施)には個人や団体から8000件超の意見が寄せられたが、このうち個人の意見では共同親権の導入案に「反対」が「賛成」の約2倍となった。ただ具体的中身については公開されていない。
(『週刊金曜日』2024年2月9日号)