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裏金問題下の自民、京都市長選“勝っても敗北”の焦燥

土岐直彦・ジャーナリスト。|2024年2月29日6:34PM

16年ぶりの新人同士の争いで混戦のはずが、土壇場で「非共産対共産系」へと逆戻りした2月4日の京都市長選。裏金問題の逆風下で自民側は薄氷の勝利。「市民派」は同日の前橋市長選結果と合わせ実質的「市民の勝利」と沸いた。

 2月4日投開票の京都市長選挙は与野党(自民、立憲民主、公明、国民民主)推薦の元参議院議員、松井孝治氏(63歳)が、無所属で「市民派」をうたい、共産党が支援する弁護士の福山和人氏(62歳)らを破り初当選した。松井氏が17万7454票、福山氏が16万1203票と約1万6000票差。他は元京都市議会議員の村山祥栄氏(45歳)が7万2613票、元京都府議会議員の二之湯真士氏(44歳)が5万4430票。投票率は41・67%(前回40・71%)だった。

逆風下での戦いを強いられた松井孝治氏(右)と「あと一歩」及ばなかった福山和人氏。(撮影/土岐直彦)

 4期目の門川大作市長が引退を表明し、市長選は当初、日本維新の会や国民民主党の京都府連、地元(京都2区)選出の前原誠司衆議院議員が立ち上げた新党「教育無償化を実現する会」、地域政党の「京都党」が村山氏を推薦。主要の“三極”による混戦が予想され、村山氏が松井氏を上回る予想もあった。ところが村山氏をめぐり政治資金パーティの架空開催疑惑(※)が浮上し、1月中旬に維新などが推薦撤回、自主投票となったことで選挙構図が急転回(本誌1月19日号で既報)。結局は地元で長らく続いた「非共産対共産系」の構図へと逆戻りするという経緯をたどった。

 折しも自民は党内派閥の裏金問題を抱えていたため松井陣営は党本部幹部による応援がかえってマイナスになると断り、自民色を消す戦略に転換。立憲も相乗り批判を意識して党幹部の応援は控えた。また、共産支援の福山陣営も政党色を薄めて「市民派」を前面に打ち出した。昨春の京都市議選で躍進するなど、松井陣営が当初最も警戒していた維新が「不戦敗」で全体的に政党の存在が希薄な選挙戦に。最後は松井陣営がなりふり構わぬ組織戦で逃げ切った。

 得票率3・5ポイント差に迫った福山氏はスローガンに掲げた「お金で動く政治ではなく市民とつくる政治に」への大きな流れは示せた。

「政治とカネ」も焦点に

 2月4日は群馬県で前橋市長選挙の投開票もあり、野党系新人が現職を破るという「保守王国」の結果が驚きを呼んだ(本誌2月16日号で既報)。両市長選は裏金事件後最初の大型選挙ということで民意の表れ方が注目され、自民も小渕優子・選挙対策委員長らが1月末に党本部で情勢分析をしたという。結果的には1勝1敗と、危うく2敗を免れた。

 選挙戦では門川前市長時代より残された課題を軸に、厳しい財政難、若者・子育て世代の市外への人口流出、観光客の回復増に伴う負の影響(オーバーツーリズム)対策などをめぐっての論戦が繰り広げられた。松井氏は「突き抜ける『世界都市京都』をつくる」をうたい文句に、宿泊税引き上げなど観光の諸課題への対応や、市バスの生活路線の混雑緩和、子どもの医療費無償化などに「府市協調」で取り組むとした。陣営も同氏の通産官僚、民主党政権時代の官房副長官経験のほか、慶應義塾大学教授も務めた経歴も挙げて「市トップにふさわしい」とアピール。京都政財界が推す事実上の「門川後継」候補だが、門川市政への市民の評価が厳しいため、松井氏は「後継ではない」としていた。

「政治とカネ」も焦点となった。1月12日には法政大学前総長の田中優子氏ら著名人5氏が「こんな金権腐敗政治を許していいのか 2・4京都―良識の審判を」と題して呼びかけ文を発表。「京都から『清潔な政治を』の流れを大きく広げましょう」などとする内容に、作家の赤川次郎氏や憲法学者の小林節・慶應義塾大学名誉教授、ルポライターの鎌田慧氏ら約100人が賛同した。

 福山氏も前記スローガンの下、市民の暮らしや生業への応援姿勢を強調。門川市政でカットされた保育園の補助金を元に戻したり、大幅値上げされた敬老乗車証の負担引き下げなど「4つの安心」、子ども医療費の18歳までの無償化など「5つの無償化」を挙げて「市の年間予算の1%を充てて実現できる」とするなど、福祉を切り捨てて大型開発やハコモノに偏りがちな保守市政からの転換を訴えた。選挙戦では幅広い市民らによる「つなぐ京都2024」を基盤に活動。「共産系候補」とされることに苦言を呈した。

 優位の予想から一転苦境に立たされた村山氏は個人演説会で「私の落ち度で申し訳ありません」と、まずお詫び。「しがらみを断ち切る、本気の行財政改革!」と掲げつつ10項目の「改革」を「4年でやり切る」と再起を期していた。

「完全無所属」とする二之湯氏は政党や既得権益に気を遣うあまり改革できぬまま財政難に直面する京都市を「若い力で変える」と力説。ユーチューブでの連夜の動画配信「にのチャンLIVE!」では、コメントを寄せる視聴者と対話。北陸新幹線延伸計画での地元負担問題では「京都の地下を通るトンネルに1兆円は使わせない」と話した。

世論調査「横一線」の衝撃

 そんな選挙戦で松井陣営に衝撃が走り、福山陣営に期待が大きく膨らんだのは1月29日。新聞各紙が実施した世論調査で中盤情勢について「松井氏・福山氏横一線」「松井氏と福山氏激しく競り合う」との結果が出たからだ。

共産党委員長就任直後の田村智子氏(中央)が登壇した1月29日の山科駅前街頭演説会。(撮影/土岐直彦)

 この日の夕刻、共産党委員長に就任したばかりの田村智子参議院議員は市内JR山科駅前で演説。熱気を帯びた多数の支持者を前に「金権腐敗の冷たい政治から市民の要求を尊重する政治へと、京都から変えていきましょう」と声を張り上げた。翌30日、共産党は福山市長実現に向け緊急支援募金を全国に呼び掛けたほか、2月1日付『しんぶん赤旗』も「京都市長選『横一線』の衝撃」との見出しによる記者座談会を1・2面に掲載。終盤に来て共産が前景に表れた形だ。

 対する松井陣営。自民党参議院議員で京都府連会長の西田昌司氏がユーチューブ配信した動画には1月29日、「まさかの緊急事態!共産党に京都市が乗っ取られる?!」との見出しが躍った。2月1日に同陣営が急遽開いた決起集会には会期中で東京にいた国会議員はとんぼ返りで京都に戻り参加。

 同夜に市内左京区の小学校体育館で開かれた個人演説会では西田氏や西脇隆俊・京都府知事ら弁士6人全員が福山陣営・共産に対する強い危機感と警戒感を露わにした。最後に登壇した松井氏も、共産が京都府政で与党だった蜷川虎三知事(1950~78年の7期)時代に「時計の針を戻してはいけない」と一層の支援を強く訴えた。

 投票前日・当日の2月3日~4日には『京都新聞』に連続で「いま、京都が危ない!」などの大見出しで「一党一派に推される市長による偏った市政運営で京都を後退させてはいけません」と掲げた大きな広告を掲載。個人演説会も投開票前夜まで設定し、徹底して組織の引き締めをはかった。

「4年後は勝てる選挙を」

 投開票日の出口調査では『朝日新聞』『京都新聞』がほぼ同様の結果を公表。松井氏は公明支持層の約9割を固めた一方、自民支持層は6割超にとどまり、他の3候補にそれぞれ1割超が分散した。立憲支持層では半分にも、国民支持層でも4割に届かず、国政与野党の相乗りへの不満が一定程度表れた形だ。無党派層からの支持も3割に届かず、苦戦を強いられた。

 福山氏は共産支持層の約9割を固め、れいわ新選組支持層の8割弱、立憲支持層の3割余を取り込んだ。無党派層からは3分の1以上と、4候補中トップの支持を集めた。財政難を福祉施策にしわ寄せさせた門川市政への怒りの受け皿として猛追したが、あと一歩及ばず「勝てた選挙」を逃した。

 2月初旬、左京区で行なわれた市長選の報告集会で「つなぐ京都2024」の代表は「人格も政策も断トツの福山さんなので本当に悔しい。4年後に今から備えよう」と総括。敗戦の弁で「ここまで肉薄したのは市民の勝利と言っていいのでは」と指摘した福山氏。「暮らしに重点を置く主張を貫いて4党の『連合艦隊』に立ち向かい、市民と野党共闘の底力の一端は示せた。今後も市民が声を上げることが大切。そこに道は開ける」と前を向いた。

※村山祥栄氏の資金管理団体が昨年12月から今年1月にかけて企画した9回の政治資金パーティのうち8回で来場者がなかったことについて、京都弁護士会所属の弁護士ら20人が2月1日、政治資金規正法違反の疑いがあるとして京都地検に告発状を提出した。

(『週刊金曜日』2024年2月23日号)

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