避難所運営に不足する女性の防災リーダー
神原里佳・ライター|2024年3月1日6:49PM
元日に能登半島を襲った大地震で今も多くの人が避難所で生活しており、とりわけ女性がさまざまな困難に直面している。「ジェンダー視点を取り入れた防災教育」の取り組みを全国で進めている青森県の一般社団法人「男女共同参画地域みらいねっと」代表理事の小山内世喜子さんが、1月30日に開催されたオンラインセミナー(主催・埼玉大学レジリエント社会研究センター、埼玉大学ダイバーシティ推進センター)で、避難所の現状や課題について報告した。
小山内さんは震災から2週間後の1月14日から17日までの4日間、石川県穴水町で避難所の開設支援・運営支援に携わった。人口約7400人の穴水町は1月時点で43の避難所が開設されており、避難所生活者は1500人を超えていた。小山内さんは愛知県からの支援団体に加わり、2カ所の避難所で、プライバシーを確保するための仕切りや段ボールベッドの製作・設置、足湯サロンなどの活動に取り組んだ。
避難所の大きな課題の一つにプライバシーの問題がある。小山内さんが入った避難所も震災後すぐは、施設の部屋に男女混合で数十人、雑魚寝をしている状態で、「プライバシーはほとんどないと感じた」と言う。更衣室は小山内さんが現地に入る前日にやっと設置されたそうで、「それまでは布団の中で着替えたり、半壊の家に戻って洋服や下着を引っ張りだし、余震や倒壊の恐怖の中で着替えてからまた避難所に戻ったりする人もいた」と、着替えさえも命がけで行なわなければならなかった現状を明らかにした。
トイレは仮設トイレが設置されており、男性用、女性用、男女兼用の3タイプがあったが、避難所から離れた場所にあるため、「遠い、寒い、照明もないから暗い。夜は怖くて行けないだろうなと思った」という。実際、トイレに行く回数を減らすため水を飲むのを控え、足がむくんでしまった高齢の女性もいた。
生理用品など支援物資については、震災から2週間後ということもあってたくさんあり、生理用品も自由に使えるようトイレに置いてあった。離乳食やミルクなどは見えるところにあったが、哺乳瓶などは奥の戸棚の中に保管してあり、あることを知らなくて困っている人もいるのではないかと予想された。小山内さんは「量的に十分であっても、一人ひとりのニーズに沿って活用できているとは言いがたい」と指摘した。
根強い性別役割分担意識
避難所で女性たちがこうした困難に直面する原因の一つとして、自治体の防災部署や避難所運営に女性がいないということが挙げられる。小山内さんもこれまでの数々の被災地支援の経験からそれを痛感し、現在、全国で女性の防災リーダーの育成にも取り組む。
「女性消防団など、防災に携わる女性は地域にいるはずなのに、実際の災害の現場ではそういう人たちの姿がなかなか見えない。おそらく彼女たちは災害時、家族のケアで精いっぱいなのではないか。男性であれば災害時に消防団としての活動ができるが、女性は家で子どもや高齢の家族の面倒を見なければいけないという性別役割分担意識は根強い。非常時であればなおさら外に出ての活動がしにくいのではないか」と小山内さんは推測する。
また「避難所運営に女性がいたとしても、リーダーシップを発揮できない現状もある」とも指摘。「食事作りやトイレ掃除などが若い女性の役割になっている避難所もあった。災害時に女性がリーダーシップを発揮するには、やはり平時から女性が意見を言えて活躍できる土壌づくりが必要。女性だけが頑張るのではなく地域全体で意識改革をしていかなければ」と訴えた。
小山内さんは今月1日から6日まで再び穴水町に入った。「これからも被災者に寄り添った支援をしていく」と話している。
(『週刊金曜日』2024年2月23日号)