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「テレビに声を上げよう」田中優子

田中優子|2024年3月11日8:35PM

田中優子・『週刊金曜日』編集委員。

 テレビは一体、何をしているのだろう。いくつもの戦争、日本の軍拡、原発の後始末、芸能界の性被害、政治家の裏金、選挙を乗っ取る宗教団体。こういう時代にエンターテインメントに集中? これでは先が思いやられる。

 私がそう思ったのは、大森淳郎著『ラジオと戦争 放送人たちの「報国」』(NHK出版)を読んだ時だった。戦前のラジオは戦時体制に合わせて自らを腐らせていった。軍部の発表を鵜呑みにし、アナウンサーの発声方法まで変えて人々を戦争に駆り立てた。テレビもこのままではそうなりかねない。テレビの影響力はまだまだ大きい。事実とその根拠を報道してほしい。

 本誌2月16日号の「メディアウォッチ」でも取り上げてくれたように、日本外国特派員協会で「テレビ輝け!市民ネットワーク」の記者会見を開催した。弁護士を中心に結成の動きが起こり、前川喜平さんと私が共同代表となり署名を集めたのである。理由は複数あるが、記憶に鮮明なのは安倍政権下の2014年から15年にかけての礒崎陽輔総理補佐官と総務省がやりとりした膨大な内部資料だ。それを昨年3月に総務省が公開した(同3月17日号「風速計」を参照)。

 その資料によればTBSの「サンデーモーニング」とテレビ朝日の「報道ステーション」が名指しで取り上げられ「けしからん番組は取り締まる」と礒崎氏が発言している。そして実際にその年の3月末、報道ステーションの松原文枝プロデューサーが更迭され、古賀茂明氏が降板させられた。

 この記者会見後の8日には、原子力市民委員会主催のシンポジウム「『構造的暴力という視点からみる原発事故』―〝風評加害〟という言葉のもつ意味」に出席した。これもメディアと関連が深い。中国による日本の水産物輸入停止の措置に対し、まるで日本が被害者であるかのような報道の仕方だった。事故を起こした日本は、本来なら周辺諸国に頭を下げねばならないのだ。

 汚染水の海洋放出を正当化する「風評対策」という広報にも多くの予算が計上されている。原発でお馴染みの「安心・安全」の宣伝である。「風評被害・加害」という言葉が言論を封じることや、さらなる科学的検証を抑制することにつながってしまう。本来の風評対策は事故の原因たる原発を止めることだ。そのことに向き合わない姿勢は、まさに「構造的暴力」なのである。

(『週刊金曜日』2024年3月8日号)

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