女性の低賃金・貧困招く第3号被保険者制度
生き方の選択に中立な制度へ
三浦美和子・ジャーナリスト|2024年3月11日8:17PM
女性を分断し、性差別を再生産してきたのが年金の「第3号被保険者」制度だ。第3号被保険者とは、厚生年金に加入している勤め人(第2号被保険者)に扶養されている年収130万円未満、20歳以上60歳未満の人のことで、女性が圧倒的多数を占めている。実際、「働く夫+専業主婦の妻」世帯をモデルとして1986年に誕生し、「夫の扶養に入れば保険料を払わなくても将来年金がもらえる」仕組みと認識されている。
共働き世帯が専業主婦世帯より増加した90年代後半以降も温存されてきたが、男女賃金格差の原因になること、共働き世帯や単身世帯と比べて給付と負担の関係が不公平であることなどから、見直しを求める声は高まっている。
2月26日に開催された「第3号被保険者制度と『収入の壁』」をテーマにしたオンライン学習会(主催:北京JAC)では、中高年女性の自助グループ「わくわくシニアシングルズ」の大矢さよ子さんが「第3号被保険者は、制度ができた当時から非常に不公平だと言われてきた。夫が第1号だったら妻も1号で払う、夫が第2号なら払わなくてもいい、単身女性は配偶者がいないから当然保険料を払う……というように『夫がどうであるか』によって女性を差別している」と批判。「第3号被保険者制度は第3号被保険者だけの問題にとどまらず、女性の低賃金や非正規雇用の問題にもつながっている」と訴えた。
なぜ、第3号被保険者のみの問題ではなく、男女の賃金格差や非正規雇用の問題にもつながるのか。大矢さんは「第3号被保険者の人たちは、賃金が上がることよりも労働時間を扶養の範囲内に収めることを中心に考えているので、それに引きずられてどうしても女性全体の賃金が上がらなくなる。それが第3号の人だけの問題ではないと言われるゆえんです」と解説。そして、「結果的に単身者の女性たちが老後に向けて困窮することにつながる。実際、独居女性の半数は貧困状態に陥っている」ことも指摘した。
事業主からすれば第3号被保険者は安く使えるため、第3号の賃金とその他の非正規雇用の賃金はともに低いままだ。
「バブルが崩壊した1990年代初頭以降、非正規雇用が増える中で『非正規雇用やパート労働であれば、賃金が安くていい』という労働慣行ができてしまった。そういう雇用の仕組みをつくった要因として、この第3号の問題は大きい」と大矢さん。
「不公平の上塗り」制度
ちなみに、現在、第3号被保険者の国民年金保険料を負担しているのは、独身者を含めた厚生年金の被保険者たちだ。誤解されがちだが、第3号の配偶者が代わりに払っているのではない。
岸田文雄政権は昨年10月、「年収の壁・支援強化パッケージ」という第3号被保険者の支援策を打ち出した。パートやアルバイトの人が、社会保険への加入義務が発生する「年収の壁」を気にせず働けるよう雇用主に助成金を出すもので、言ってみれば第3号被保険者の保険料を国が肩代わりする仕組みだ。いずれにしても第3号被保険者だけ優遇されていると言われても仕方のないシステムだ。大矢さんは「独身世帯も共働き世帯もあるのに、第3号被保険者だけを救済するもの。第3号被保険者制度そのものが不公平なのに、不公平の上塗りをするようなものだ」と批判する。
政治が制度改正に及び腰な一方、連合の芳野友子会長は昨年6月、廃止の方向性を視野にこう述べている。「女性が親の介護などで仕事を辞めざるを得ないとき、結婚している人は2号から3号に移行できるが、結婚していなければ第1号になる。ライフスタイルによって女性の位置づけが変わってしまうというのは不公平な制度ではないか。どういう生き方を選択しても不利にならないような、中立的な制度にしていかなければならない」。
大矢さんは「第3号被保険者制度を温存したままでは、どのような手を打っても、またどこかにひずみが生じる。この制度はこれからの世代に必要なのか。働く女性、単身女性の声を政治に届けなければいけない」と語った。
(『週刊金曜日』2024年3月8日号)