卒業式「『君が代』歌いたくない」京都の親子が文科省へ申し入れ
「強制やめて」
永尾俊彦・ルポライター|2024年3月12日4:26PM
昨春の京都市立小学校の卒業式と同中学校の入学式で「君が代」を歌いたくないと申し出、教員らに説得されたが結局歌わなかった田花結希子アイリーンさん(13歳)と母親の水谷麻里子キャロラインさん(48歳)親子(本誌3月1日号参照)が、2月14日に東京・永田町の参議院議員会館で文部科学省の職員に「日の丸・君が代」の強制をしないよう要請した。京都選挙区選出の倉林明子参議院議員(共産党)の仲介による。
最初に、親子が①「日の丸・君が代」を強制され非常に嫌な思いをした、②国旗国歌法制定時に政府は「強制しない」と答弁していたのに不起立の教職員を処分するのは「思想・信条の自由」の侵害、③親子は外国にルーツがあり、これからのグローバル社会に「日の丸・君が代」強制は逆行している、という3点を挙げ、文科省に子どもが主人公の式典にするよう都道府県の教育委員会への指導を求める要請書を同省職員に手渡した。
応対した文科省初等中等教育局教育課程課の土橋廉・企画調査係長は「文科省としては国旗国歌法制定時から内心には立ち入らないが、他方日本人として国旗国歌を尊重する態度が外国の国旗国歌を尊重する態度につながることから、その指導は必要であるという立場です」と答えた。
これに対し、アイリーンさんが、教員らから「歌わんと皆が迷惑」「今まで練習してきたことがムダになる」など、40分間も説得されたと子どもの「内心の自由」も保障されていない実態を説明した。
キャロラインさんも「嫌やと思いながら立つ子、口パクの子もいる。歌うか歌わないか選べない。その時点で内心に踏み込んでいる」と指摘した。
土橋係長は「(歌いたくないと言う)当事者たちが(国旗国歌を尊重する意義が)分かるよう教員が説明を尽くす必要はあるが、それでも納得できない人には強要しないのが今の法令」だとした。
「教委には逆らえない」
要請では、アイリーンさんがなぜ起立できないのかクラスで説明するため、「日の丸・君が代」がどう使われたかの歴史をまとめたプリントを配ってもらおうとクラスの人数分コピーして持って行ったところ、「先生に『アカン』と止められた」経験も話した。
そのうえで「日の丸・君が代の歴史を教える時間をとってほしい。社会の先生が知らないんですよ」と要望。また、キャロラインさんも「歌うのが嫌な子がいることが先生に通じない。昭和天皇が戦争責任を取らなかったことなどから『日の丸・君が代』に根強く反対している人がいることを教えないので、娘は『何で嫌なん?』と聞かれる」と述べた。
土橋係長は「教育は法令上、現場にかなり裁量が与えられている。文科省は学習指導要領で科目や内容は規定しているが、どう教えるかは現場の裁量」だと回答。
だが、アイリーンさんは「(現場の裁量と言うが)先生は『教育委員会には逆らえない』と言いました」と証言した。
これに対して土橋係長は「法令上は現場のマスターは校長。校長が教育課程を編成します」と答えた。この点、キャロラインさんが、「『校長権限は強い』でいいですか」と念を押すと、土橋係長は「校長がマスター」と繰り返した。
最後に倉林議員が「『内心の自由』を実態としてどう保障するのか」と追及すると、土橋係長は「どう指導するかは個々の学校の課題」と答えたが、倉林議員が「すり替え。逃げている」と批判。
結局、土橋係長が京都府教育委員会を通じて京都市教育委員会に事実関係を確認し、親子の要請書の内容を伝えることになった。
終了後、キャロラインさんは「『校長がマスター』という言葉を引き出せたので、これからの卒・入学式で毎回校長に子どもたちに強制しないよう申し入れをします。SNSでも発信し、賛同してくれる人を集めたい」と語った。
(『週刊金曜日』2024年3月8日号)