「僧侶からの性暴力」
尼僧の告発受け天台宗が調査開始
小川たまか・ライター|2024年3月28日6:55PM
天台宗の寺の住職A(60代)により長年にわたり性暴力を受けたとして、尼僧の叡敦さん(50代)が、Aと同宗の大僧正B(80代)への懲戒を申し立てた件(本誌3月1日号既報)で天台宗が調査を開始した。3月4日、滋賀県大津市の天台宗事務所を訪問した叡敦さんと代理人の佐藤倫子弁護士に約2時間の聞き取り調査を実施。その後、叡敦さんらは同市内で記者会見を行ない、宗教問題に詳しいジャーナリストの鈴木エイトさん、藤田庄市さんも出席した。
叡敦さんは信仰の篤い家に育ち、2009年に母が亡くなった後、親戚であるBに供養を頼った。Bは叡敦さんが子どもの頃に千日回峰行を達成。「生き仏」と崇められる人物だったが、BからAを紹介された後、Aからストーカー行為が繰り返され、性暴力に至ったと訴える。性暴力や心理的拘束、言葉の暴力は23年1月に家族により救出されるまで続いた。19年に叡敦さんは刑事告訴。Aの寺への家宅捜索が行なわれたが、Aは嫌疑不十分で不起訴となっている。
佐藤弁護士によれば、調査役に任命された天台宗内の2人による調査の内容は非公開。叡敦さんは「14年経ってようやく土俵に乗れたかなと。天台宗様は丁寧に事実確認をしていただきまして、本当にありがたいお時間をいただいたと思っています」と感想を話した。
叡敦さんの訴えで特徴的な点として藤田さんは、刑事事件で不起訴になった際、それが「仏様から出された答え」であり、さらには「不起訴になった意味を教えてくれるのは大阿闍梨(B)しかいない」と思ってしまった点だと指摘。「叡敦さんは宗教2世。お祖父さんも僧侶だった。血がつながっている親族が生き仏になり、(生き仏ということは)仏さんと同格。その枠組みが小学生の頃にできてしまっている」として「超自然的存在」と崇められる存在への信仰心理を解説した。
鈴木さんは海外のカトリック、プロテスタント教会での未成年者に対する性虐待や、韓国のカルト集団「摂理」での性暴力事件、国内での性暴力の疑いがある宗教団体の事例などを紹介。また「地位の優劣がある組織体ではこういう問題が起こりやすい」としたうえで、「権力者の性加害には共通項がある。権力を笠に加害をする、周りが見て見ぬ振りをする、隠蔽工作をする、加害者に加担する動きをする」と説明した。
「逆らえば地獄に堕ちる」
さらに鈴木さんは「カルトにおけるマインドコントロールを、まともな宗教団体は組織として認めない」と、カルトと宗教団体との違いに言及。「まともな団体と、組織体として教義上でそれを行なう団体とは区別して考えるべきだ」としたうえで「天台宗がこの訴えにどう対応するかで組織としての健全性が問われている」と指摘した。
記者会見では、叡敦さんが逃げられない心理に追い込まれた背景にはBの関与が大きかったとする説明が繰り返し行なわれた。
Bはどういう存在だったかを問われた叡敦さんは「絶対的な権力者、絶対的に帰依する人。1年前まで人間だということに気がつきませんでした。仏様に一番近い人だと思っていました」と語り、Bから「Aの言葉は私の言葉だと思って聞きなさい」と言われて従った背景を説明した。「とっても大きくて優しい存在だった仏様が、いつの間にか怖い仏様に変わっていました。逆らったら地獄に堕ちると、一般の方から言われたらそうでもないのかもしれないけれど、袈裟をかけた人に言われると、恐ろしいぐらい逆らえないものでした」と当時の心境を語った。
天台宗に求めることを聞かれた叡敦さんは「AとBの擯斥処分(僧籍の取り下げ)」だと明言した。佐藤弁護士は「天台宗を敵にしているつもりはない。この問題にきちんと向き合って、正しい対処をしていただきたいという気持ちがあるだけ」だと強調。懲戒いかんにかかわらず調査には第三者の目が必要だとして「第三者委員会を設置してほしいと申し入れている」と明らかにした。
(『週刊金曜日』2024年3月15日号)