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高裁判事のSNS投稿めぐる弾劾裁判が結審
裁判員変更に「残念」の声
佐藤和雄・ジャーナリスト|2024年3月28日7:05PM
SNSの投稿で殺人事件の遺族を傷つけたなどとして訴追された岡口基一・仙台高裁判事(58歳)=職務停止中=を辞めさせ、法曹資格を奪うかどうかを決める弾劾裁判(※)の第15回公判が2月28日、裁判官弾劾裁判所(裁判長・船田元衆議院議員=自民)であり、弁護側が国会議員で構成する訴追委員会(委員長・田村憲久衆議院議員=自民)の主張に反論する最終意見陳述を述べ結審した。判決は4月3日に言い渡される予定。
戦後日本に誕生した裁判官弾劾法によって裁判官を裁く事件は、今回で10件目。過去9件の事件では最初の2件が不罷免。その後の7件が罷免の判決だった。最近の3事件は(1)少女への児童買春(2)裁判所女性職員へのストーカー行為(3)電車内での女性のスカート内の下着の盗撮――であり、公判はわずか2回か3回で終わっている。今回は過去最高の公判回数を数えており、異例の訴追だったことを示している。
岡口判事は過去の事件のような明白な犯罪行為はしていないが、訴追委員会はSNS投稿などの13の行為を挙げ、裁判官弾劾法第2条第2号に規定する「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」だったと主張してきた。
弁護側は最終意見陳述で、「最高裁判所が、(岡口判事に対して)自らまたは高等裁判所で分限裁判による懲戒処分をしながら、(弾劾裁判所に)訴追請求をしていない」「本件で訴追事由とされた各行為は、これまで弾劾裁判所で罷免判決が出された収賄、児童買春、ストーカー、盗撮等の犯罪行為、あるいはニセ電話事件等の社会的相当性を著しく逸脱した行為とは、根本的に内容を異にしている」などの理由を挙げて、罷免にあたらないと主張した。
公判が終わった後、弁護団は司法記者クラブで記者会見をした。最終意見を述べた伊藤真弁護士は「前回の訴追委員会の意見があまりにも独断。法的根拠にもとづかない、単なる主張にすぎなかった」と批判。さらに「最高裁が訴追請求していないことは重要なので、それを指摘した」と語った。
また、野間啓弁護士はこれまでの進め方を振り返り、「弾劾裁判であれだけ裁判員が変わったことは残念だ。その根幹は(期間が)長すぎたからだ。それをつくったのが訴追委員会。証拠提出までに1年4カ月もかかるという体たらくだった」と、同じく国会議員で構成する訴追委員会の対応を厳しく批判した。
※この日は裁判官弾劾裁判所が弁護側の意見陳述を聞く最後の場面だったが、衆参の国会議員が務める裁判員は定数14人に対して12人だけ。右端と左端の空席がそれを示す。裁判員という重い職責にもかかわらず空席が生まれるのは、裁判官弾劾法で衆参それぞれ5人以上いれば審理と裁判ができる、としているからだ。これが日本において裁判官を裁く、国会議員による弾劾裁判の制度であり、実態である。
※2022年3月11日号、同年12月9日号、23年8月18日号で既報=3記事とも「週刊金曜日オンライン」で公開中。
(「週刊金曜日」2024年3月15日号)