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「ベルリン映画祭での波乱」想田和弘

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。|2024年3月28日7:35PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

 拙作『五香宮の猫』が2月のベルリン国際映画祭に招待され、出席した。4回の上映がすべて完売となり、大盛況だった。

 しかし今年のベルリン映画祭は、イスラエルの政策を支持しつづけるドイツ政府とベルリン映画祭を同一視し、映画祭のボイコットを呼びかける動きもあり、波乱含みであった。「ベルリン映画祭に参加することは、パレスチナ人の虐殺に加担することだ」と僕らを批判する声もSNSで見られた。

 だが、前回書いたように、映画祭は世界中から集まる人々の対話の場である。対話が足りないからこそ分断と対立と戦争が生じることを考えれば、対話の場を拒絶することは逆効果であろう。それに、運営資金の多くがドイツ政府から拠出されているとはいえ、ベルリン映画祭はドイツ政府と一体ではない。作品や審査員の選考は独立してなされていて、参加者も多様だからだ。

 実際、映画祭の終幕を飾った授賞式では、登壇した受賞者や審査員から次々に「停戦」を求める発言がなされ、会場は大きな拍手に包まれた。拙作もノミネートされていたドキュメンタリー賞は、パレスチナ人監督とイスラエル人監督がタッグを組み、ヨルダン川西岸でイスラエルがパレスチナ人の家を破壊していく様子を描いた『ノー・アザー・ランド』が受賞した。パレスチナ人のバセル・アドラ監督は受賞スピーチで、「ドイツはイスラエルへの武器供与をやめよ」と発言した。また、イスラエル人のユヴァル・アブラハム監督は「私には移動の自由があるが、バセルは西岸に閉じ込められている。不平等を終わらせなければならない」と発言した。いずれの発言も拍手喝采を浴び、会場には連帯が生じた。

 しかし、この授賞式は物議をかもした。映画祭の主要スポンサーでもあるベルリン市の市長はXで「昨夜ベルリン映画祭で起きたことは、許容できぬ相対化である。反ユダヤ主義は、ベルリンでは許されない。来年からの新体制では、同様なことが起きぬよう望む」と非難した。アブラハム監督には複数の殺害予告が届いた。

 イスラエルの政策を批判したり、停戦を求めるだけで、「反ユダヤ主義」とのレッテルを貼られて社会性を剥奪される。それが今のドイツの状況なのだ。分断と対立の深さを印象づけられると同時に、アブラハム監督の身の安全と、来年からのベルリン映画祭の独立性が、とても心配になった。

(『週刊金曜日』2024年3月22日号)

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