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相模原市の“骨抜き”人権尊重条例が可決・成立 差別と闘う義務から逃亡
石橋学・『神奈川新聞』記者|2024年4月11日7:38PM
「恥を知れ!」の怒号も飛び交う中、相模原市人権尊重のまちづくり条例は3月19日、市議会の賛成多数で可決・成立した。傍聴席を埋めた市民の憤怒は、差別をなくすための画期的な答申を骨抜きにした本村賢太郎市長、唯々諾々と従う市議たちへと向けられた。車いすの重度障害者たちは声にならない声を振り絞り、悔し涙を流す在日コリアン女性もいた。全国の範となることを期待された「相模原モデル」は無残、制定過程を含めて見習ってはいけない見本になり果てた。
「市民の代表である議会にも理解いただいた。72万市民にふさわしい条例だ」。そう胸を張った本村市長は不遜な態度を隠そうともしなくなっていた。前日、答申をまとめた市人権施策審議会の会長を含む大学教授2人が辞意を表明していた。答申が無視された上、理由を尋ねた公開質問状に市がまともに回答しなかったからだった。差別を本気でなくす実効性のある条例を求める声に耳をふさぐ市の態度は最後まで徹底していた。
有識者らで作る審議会が3年半の熟議を重ねた答申はマイノリティの被差別当事者や人権団体などから高く評価された。外国ルーツの人だけでなく障害者や性的マイノリティ、被差別部落出身者へのヘイトスピーチを罰則で規制する。独立性の高い人権委員会を設置し、差別の被害者を救済していく。これらの先進的な内容が実現すれば、全国初のヘイトスピーチ罰則条例を定めた川崎市に続くだけでなく、救済対象が拡大され、人権を守る取り組みが大きく前進するはずだった。
何より重度障害者19人が虐殺されるという戦後最悪のヘイトクライムまで起きた相模原市には十分な立法事実があり、責任があるはずだった。本村市長はしかし、自ら諮問した答申をあえて無視した。川崎市に引けを取らない条例を作るとぶち上げたのは自分だったが「拳を高く振り上げすぎた」と恥も外聞もなく言った。外部の識者と顧問弁護士にヒアリングし、否定的な意見に飛びついた。市役所前でレイシストが毎週続けたマイノリティへの攻撃をヘイトスピーチではないと言い張った。自分たちに都合のいい結果を得ようとするかのような市民意識調査も行なわれた。「答申は最大限尊重した」と虚偽の答弁を繰り返し、審議会委員を逆なでした。「こんな条例ならないほうがまし」。答申無視に始まるプロセスが前代未聞なら、批判もまた聞いたことのない痛烈なものとなった。
採決で反対はわずか5人
市民の代表として誤りをただすべき市議会も懸念の通り、害悪を広げた。賛成討論に立った立憲民主は「障害者への差別的言動は過去の実態としてあまりなかった」と差別に向き合おうとしない市の姿勢を追認した。「市長与党」のさがみみらいは「市民の声は分断を生まないような、互いが尊重される条例であってほしいというものだった」と述べ、罰則を求める当事者が分断を招いているかのようにねじ曲げた。構造的な差別でマイノリティを分断しているマジョリティの責任を隠蔽するという意味では二重に悪質だった。
採決では議長を除く45人中、反対は女性議員で作る颯爽の会3人と共産党の2人だけ。何が何でも差別に厳しい条例にはしない本村市長の姿勢は、杉田水脈衆議院議員のヘイトスピーチすら問題視しない自民党への配慮がにじむが、その他の会派も一部を除いて右に倣えした。人権に不見識で無責任な市長あっての骨抜き条例であり、この議会あっての反人権条例なのだった。
本村市長が「72万市民にふさわしい条例」と胸を張るほどマイノリティのための条例ではない、マジョリティのマジョリティによるマジョリティのための条例という反人権ぶりが際立つ。行政・議会はかくも差別と闘う義務から逃れようとする。うそごまかしを許さない「反差別規範」を打ち立てる差別禁止法はだから必要なのだ。答申を活用して各地に条例を広げる取り組みが求められている。
(『週刊金曜日』2024年3月29日号)