在日コリアン男性が高校同窓生のネット差別投稿で提訴 「差別意識変えたい」
佐藤和雄・ジャーナリスト|2024年4月11日8:08PM
インターネット空間が影響力を持ち、かつ日本経済が国際的な地位を下げていく中で、差別意識を好んで持つような人々が日本国内で広がっていくのではないか――。高校時代の同窓生がインターネット上に書き込んだヘイトスピーチによって差別されたとして、東京都杉並区の在日コリアン3世である金正則さん(69歳)が3月29日、ヘイト投稿をした福岡市在住の男性に損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。記者会見で提訴に至る経緯と内容を聞くと、まさに最初に述べたような不安と恐怖を感じさせる。
原告となった金正則さんは、福岡県の名門、修猷館高校を卒業し、上智大学独文科へと進んだ。広告代理店に就職後、独立して会社を設立。生活者研究と未来予測による新商品や新事業戦略開発のためのマーケティング・ディレクターとして働いている。『1万人市場調査で読み解く ツイッター社会進化論』(朝日新書)などの筆者でもある。
まずは、訴状や記者会見で配布された関連資料から、提訴の内容を説明しよう。
被告であるN氏は、金さんと同じ修猷館高校の同学年生である。ともに東京で大学を卒業・就職し、東京での同窓会で交流を続け、「敬称なしで呼び合う旧友」だったという。
N氏は東京の会社を辞めた後、福岡に居住地を戻した。以前から、実名・顔写真入りでX(旧ツイッター)やフェイスブックで嫌韓反中、在日ヘイト投稿をしていたので、金さんが地元で会って注意を促したり、高校の同期生のメーリングリストでフェイスブックの削除などを求めたりしたところ、フェイスブックは削除されたが、2020年からはXで「在日の金くん」「在日の金くんへ」と呼びかけ、「朝鮮人ってやっぱり馬鹿だね。救い様が無いよな」とか「在日韓国人朝鮮人の金くん。お仲間が日本人の幼児を殺したよ。しかも、酷い状態で。どうしてくれるの?お前が責任取れよ」などの投稿を重ねてきた。
分断の理論に染まる
訴状では差別的言動を示すものとして15件の投稿に絞って掲載しているが、実際にはこの種の投稿は150件を超えているという。
記者会見で神原元弁護士は「頭の中がレイシズム(人種差別)に染まっているような表現だ。こういう表現を社会に残しておいてはいけない」と強調。さらに「ヘイトスピーチ解消法(差別的言動解消法)は16年にできたが、デモにおけるヘイトスピーチを念頭につくられている法律。やはりインターネット上のヘイトスピーチ、レイシズムに対する規制はまだまだ日本ではものすごく遅れている」と語った。
金さんは「私が一番嫌なのは親と子どもに絡んでヘイトを言われたこと。差別意識は変えたいなと思っています」と述べた。
記者会見では4人の識者が発言し、裁判の重要性を述べた。その中で録画出演した作家・中沢けいさんの言葉をここで紹介し、あとの3人は別の機会を探りたい。
「これはもう完全に個人の問題ではなく、社会の問題としてとらえていい言動。この方(被告)の言動は個人の感覚から出てきていない。社会が意図的につくりあげた、社会の分断の理論に染まってしまっている形だと思うんです」
(『週刊金曜日』2024年4月5日号)