幼稚園でのセクハラ・雇い止め問題が解決 理事長解任、職員らと和解 北海道江別市
佐藤敬子・フリーライター|2024年4月18日4:58PM
認定こども園若葉幼稚園(北海道江別市)を運営する学校法人江別キリスト教学園の理事長(75歳)が複数の女性職員に抱きつくなどのセクシュアルハラスメント行為をした問題で、理事長の処分や被害者への補償などを求めていた札幌地域労組(佐藤正剛執行委員長)が3月26日に江別市で記者会見し、同日付で同法人と和解したことを発表した。会見には被害を受けた職員4人が出席して「辛い闘いだったが、声を上げてよかった」と安堵の表情を浮かべた。
若葉幼稚園は1934(昭和9)年に江別教会(現・日本キリスト教団江別教会)が設立した幼稚園がルーツ。市内で最も歴史ある園の一つだ。2015年から認定こども園となっている。現在は0~5歳の子どもたち約100人が在籍。保育士やバスの運転手ら約40人が勤務し、職員の9割は女性が占める。
同労組によると、今年1月、同法人が有期雇用の保育士や保育支援員ら6人に対して、3月末での雇い止めを通告した。ただ、契約書には雇用期間が更新されるなどの記載があったという。
突然の知らせを受けた職員たちは「通告内容に納得できない」として、同労組の鈴木一副委員長(69歳)に相談。雇い止めにあった職員のうち5人が1月下旬に同労組の若葉幼稚園支部を結成し、雇用継続を求める団体交渉を始めた。
鈴木副委員長が職員から事情を聞いたところ、雇い止めにあった5人中3人が理事長からセクハラを受けていたと判明。調査を進めると、21年夏ごろから少なくとも20~40代の女性職員計9人が職場で被害に遭っていた。
中には事件化したケースもあり、札幌簡裁が1月、職員1人に抱きつくなどしたとして、理事長に罰金10万円の略式命令を出していたことがわかったという。
同労組は3月4日、同法人に対してセクハラ行為をした理事長の処分などを求める申し入れ書を提出。5日には被害を受けた職員4人が江別市内で記者会見を開き、カメラの前で窮状を訴えた。
職員の1人は「手が冷たいから温めてあげる」と声をかけられて手を握られたり、握手から腕を引き寄せられ抱きつかれたことがあったと説明。別の職員は「園長や副園長に相談しても取り合ってもらえず、守ってくれなかった。有期雇用という立場もあり、立ち上がってもはね返されると思った」と切実に語った。
北海道庁も聞き取り調査
この会見を受けて同法人は急遽職員説明会と保護者説明会を相次いで開催。いずれも約4時間にわたる長丁場となった。各説明会で理事長は「申し訳なかった」などと謝罪を述べたが、保護者からは「なんてことをしてくれたんだ」「先生たちをもっと大切にして」との厳しい声が上がったという。
行政も対応に動き、7日には指導権限のある北海道庁の担当者らが園長への聞き取り調査を実施。園を訪れての監査も行なった。
同法人は11日に理事会を開き、理事長によるセクハラ行為を認定して3月末での解任を決定。園長と副園長も対応を怠ったとして理事の職を解任。園長は諭旨解雇、副園長は減給処分として、ともに3月末での退職が決まった。
また組合員5人の雇い止めは撤回。セクハラ被害者のうち在職中の8人には解決金を支払い、再発防止に向けて問題の検証を行なうことなどの内容で、同労組と合意した。
26日の会見で、セクハラに遭った職員たちは「最初は我慢していれば働き続けられると思っていた。組合や家族の後押しに助けられた」「4月からも子どもたちの笑顔が見られると思うと、うれしい」などと喜んだ。
職員を支援した鈴木副委員長は「職場の現状を目の当たりにした時、最も立場の弱い人に寄り添うべき『キリスト教主義』が聞いてあきれると思った」と語る。一方で、今回は組合結成から約2カ月で解決に至ったとして「労働者の小さな声が職場を変えられた好例だ」と自信を見せた。
(『週刊金曜日』2024年4月5日号)