行政によるジェンダー差別 公務の非正規女性職員を苦しめる待遇差別の実態
古川晶子・ライター|2024年4月18日4:43PM
「育休中の3月に雇止めになりました」「月収10万円で子ども2人を育ててきました。毎年、来年度も仕事があるか不安になります」「正規職員からの差別やハラスメントがまかり通り、雇止めをちらつかされて声を上げられない」
公務非正規女性全国ネットワークはむねっと(以下、はむねっと)が2023年に実施した調査「はむねっとアンケート」(回答数523)に寄せられた、行政で働く非正規の女性職員たちの声だ。
公共の仕事は安定しているという印象を持たれがちだが、現場では非正規雇用も多い。そしてその多くが女性だ(20年の総務省調査で非正規公務員の4分の3が女性)。先のアンケート回答者も女性が91%だ。年代は40代と50代が最も多く、職場は市・区役所、学校、保育園、公民館、美術館、図書館、公民館、消費生活センター、DV相談センターなど多岐にわたる。専門知識や経験が必要な仕事も少なくないが、賃金は正規職員の半分から3分の1しかない。
アンケート調査は、22年度末に全国の地方自治体で働く非正規職員がどのようなことを経験したのか、明らかにするために実施された。20年度に導入された会計年度任用職員制度(以下、会計年度任用)の運用により「3年公募」が行なわれた結果、雇止めが多発したことがその動機だ。
自治体は会計年度任用の導入にあたって、国の官庁で働く非正規職員に適用される公募制度をなぞっている。この制度では、公募がかけられたら、在職中のベテラン職員であっても仕事を続けるためには履歴書を出して採用試験を受けなければならない。しかも選考基準は不透明だ。アンケート結果によれば、会計年度任用の職を辞めた人のうち、「仕事を続けたかったが雇止めとなった」との回答が44%を占める。雇止めの対象となるのはいつも女性たちだ。
3月17日に行なわれた、はむねっと発足3周年集会で、ハローワーク相談員のハルさん(仮名)は、労働関係の幅広い専門性とスキルが求められる職務内容にもかかわらず「経験を積んで、これから、というときに切られてしまう制度です。長年やってきてもふるいにかけられてしまう、本当に残酷な制度です」と声を詰まらせた。また、正規職員が非正規の女性職員に「あなたはだんなさんがいるから(応募しなくても)大丈夫ね」と応募の機会すら与えない対応をすることもあると明かし、「こういう差別的な制度を撤廃するべく、がんばっていきたい」と語った。
公務職場で働く非正規女性職員の苦境には、日本の行政によるジェンダー差別が根底にある。ジェンダー平等を推進すべき役所が、女性は家計補助的な働き手と決めつけて賃金を設定し、就労の意思や必要性を無視して雇止めを行なうことで、その職務の重要性や専門性を軽視しているのだ。
実際には、数年で異動する正規職員より、同じ職場に留まる非正規職員のほうが職務内容をよく知っていて適切な対応ができるという状況がしばしばあるという。理不尽な雇止めはサービスの質の低下にもつながりかねない。
集会ではその点について、サービスの受け手側からも指摘があった。市民グループ「図書館友の会全国連絡会」の会員は「公共図書館を運営する自治体の有権者として、公正な運営を求める権利と責任が私たちにはあるのではないか」と発言。雇止めによってサービスの質の低下を生み出す行政のあり方に、市民も疑問を持っていることを明らかにした。
総務省は、23年12月27日の「会計年度任用職員制度の適正な運用等について(通知)」で自治体に対し、理不尽な雇止めにつながる運用をしないよう求めている。今後、状況が改善されるか、引き続き注視する必要がある。
(『週刊金曜日』2024年4月5日号)