川勝平太・静岡県知事の辞職でどうなる?「リニア問題」
井澤宏明・ジャーナリスト|2024年4月24日4:02PM
静岡県の川勝平太知事(75歳)が4月2日、辞意を表明した。リニア中央新幹線の県内着工をめぐり「命の水を守る」と国やJR東海と対峙し「静岡バッシング」の的となってきた人物の突然の退場劇。NHKが夜7時のニューストップで報じるなど「国策」リニアの行方と絡めて注目を集めている。
きっかけは1日に行なわれた県の新採用職員への訓示だった。
「静岡県庁というのは、別の言葉で言うとシンクタンクです。毎日毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたり、あるいはものを作ったり、ということと違って、基本的にみなさま方は頭脳・知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要がありますね」
猛批判を受け報道陣に釈明した2日夕、突然漏らした辞意。川勝知事は3日、改めて記者会見し「特に一次産業、農業、酪農、水産業は最も大事にしてきた産業で、そういう方たちの心を傷つけたとすれば誠に申し訳なく、心からおわびを致します」と謝罪した。
「失言」が今回の決断の主因かと思いきや「一番大きかったのはリニアです」と切り出した川勝知事。「私は(任期の)4期目はリニアの南アルプストンネル工事から、南アルプスの水と生態系、環境をいかに守るかということに心を砕いてきた。リニア問題を解決するには、事業計画の見直し以外にないと思っていた」と振り返った。
JR東海の丹羽俊介社長が3月29日、品川―名古屋間の「2027年開業断念」を国のモニタリング会議で公式に表明し、県内ですぐに着工しても開業が「34年以降」になる見通しを示したことを挙げ、「丹羽新社長が事業計画見直しに踏み出された。リニアの問題が大きな区切りを迎えた。県民と約束したリニア問題で一里塚をしっかり越えた」と自賛してみせた。
静岡工区をめぐっては国の有識者会議も昨年11月、約3年半の議論を終え報告書をまとめた。とはいえ南アルプストンネル掘削により大井川の水が減ったり、上流の沢が枯れて生態系が破壊されたりする恐れがなくなったわけではない。県は国に議論を求めていた47項目のうち30項目が「未了」だとして着工を認めず、専門部会で同社と対話を続けるとしている。
3日の記者会見で、この点についても「道半ばでは」と問われたが「かりに工事をやるにしても2040年近くまでということだから、いかに南アルプス(トンネル)工事が長い時間かかるものでペイする(採算がとれる)かどうか問われている」と、持論の「ルート変更」を示唆する回答で応じた。
リニア事業をめぐり「立ち止まってどうしても考えざるを得ない段階。従来とはまったく違う次元に至っている」と問題提起をしようとする場面もあったが、マスコミが取り合うことはなかった。
大井川の水に生活を頼っている県民はどう受け止めているのか。茶農家でリニア工事差し止め訴訟原告の大石和央・牧之原市議(69歳)は知事の訓示について「『職業差別』と言われているが、全体から見ればそうは感じなかった。もう少し丁寧にしゃべれば誤解を生まなかったと思うが、そこだけ取り上げられると問題発言になってしまう」と冷静に受け止めている。
大石さんは「川勝知事だからこそ、リニアの環境影響評価(環境アセスメント)を改めて県で見直し、いかにずさんだったのか明らかにできた。JR東海の説明が非常に不足している中で、県はきちんとやってきている」と評価してきた。だからこそ、「リニア問題の区切りがついたと言っているが、まだ途中ではないか」と残念がり、「今まで『オール静岡』体制で、県が窓口となって同社と対話してきたが、崩れてしまうのが心配だ」と「ポスト川勝」の行方を慮る。
辞職後の知事選では、リニア問題が焦点になるのは必死だ。
開業遅れの責任を静岡県に押し付けてきたJR東海は4月4日、甲府市の山梨県駅や長野県飯田市の高架橋で工事完了が31年まで遅れる見通しを初めて明らかにした。
(『週刊金曜日』2024年4月12日号を一部修正)