高裁判事の弾劾裁判、SNS投稿で罷免判決 最後は国会議員の「良識」に?
佐藤和雄・ジャーナリスト|2024年4月24日4:14PM
驚くことばかりである。裁判所の判決の取材で正直、これほど驚いたことはない。すでに新聞、テレビで力を入れて報道された通り、SNSの投稿で殺人事件の遺族を傷つけたなどとして訴追された岡口基一・仙台高裁判事(58歳)=職務停止中=の弾劾裁判で、国会議員でつくる裁判官弾劾裁判所(裁判長=船田元・衆議院議員)は4月3日、岡口氏を辞めさせる「罷免」の判決を言い渡した。不服申し立ての制度はなく、岡口氏は弁護士になるための法曹資格も失う。
驚いた二つの内容をまず述べるとすると、第一には判決文の不可解さである。前半の「認定した事実」では、筆者が分かるだけで六つの事実関係について「訴追委員会の主張は採用できない」と認定した。検察側の主張を認めていないのである。
にもかかわらず、裁判官弾劾法に規定する「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当するかどうかの判断では、殺人事件の遺族を傷つけた「刑事事件投稿」については「遺族の感情を深く傷つけたと優に認められるべき」であり「一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を辱める行為であると言わざるを得ないから、『非行』に該当する」と認定。
さらにこの「非行」が遺族からの抗議などを受けても「真の反省や改善がなく長期にわたって断続的に同様の表現行為を繰り返した」ことが「国民の信託に背反する」程度に達しているため、「『非行』が『著しい』ものと評価できる」と結論づけた。罷免できるとの判断は、前半の内容とずいぶん差があるように感じる。
裁判長らが記者会見
もう一つは、判決言い渡し後に船田裁判長と階猛第二代理裁判長(衆議院議員)による記者会見があったことだ。国会議員による裁判所だからこその違いなのだろうか。
新聞、テレビではほとんど報じられていないので、ここは紙幅の制限はあるが、可能な限り詳しく報じてみたい。まずは船田裁判長がこう述べた。
「今回はSNSという新しい手段によって、裁判官がさまざまな発信を行ない、そのことが被害者の遺族に精神的なダメージを与えてしまったという非常に特殊なケースだった。また、(岡口判事が)刑事罰を背負っていない中での裁判だったので非常に時間がかかった」
筆者は前述した第一の驚きについて率直に問うてみた。判決文の作成に主にあたったとされる階氏がこう説明してくれた。
「まず今回は一つの行為が弾劾にあたるかではなく、たくさんの行為が累積的に重なりあって弾劾にあたるということですから、最初のところで各行為がどういうものだったかを客観的に認定したわけです。(中略)ということで行為そのものについては弁護側に有利。被訴追者側に有利な判断になりました」
その一方で、刑事事件投稿での一体性が認められると判断したうえで「トータルで見ると重ね重ね被害者を傷つけている事情がありましたので、これについては非行があるだろう」と判断したと言う。その「非行」がなぜ「著しい」ものと評価できるかについての言及はなかった気がする。
判決文では「『国民の信託に対する背反』が認められる場合に限り、『非行』が『著しい』と評価すべきである」と説明。そしてその認定は「その時々の弾劾裁判所を構成する裁判員の良識に依存することとなる」と述べている。
つまりは国会議員の「良識」にゆだねられているということである。
※『週刊金曜日』2022年3月11日号、同年12月9日号、23年8月18日号、今年3月15日号で既報=4記事とも「週刊金曜日オンライン」で公開中。
(『週刊金曜日』2024年4月12日号)