大阪万博会場に残る有害物質 子ども動員に親たちは不安の声
平野次郎・フリーライター|2024年4月24日4:49PM
2025年に大阪市の人工島・夢洲で開催される大阪・関西万博の中止を求める市民運動が活発化(本誌昨年12月22日号既報)。1月の能登半島地震発生で、復旧工事に万博工事の資材などを回すべきだとの声も広がる中、夢洲の防災・安全対策に問題があるとして、大阪府などが子どもを万博に無料招待する動員計画に対し、親たちの不安の声が高まっている。
昨年8月、大阪府の吉村洋文知事は府内の4歳から高校生までの子ども約102万人を1回目は府の負担、2回目以降は市町村の負担で複数回無料で招待する計画を表明。大阪市は市内の子ども約28万人に夏休み期間中に何度も入場できる「夏パス」を無料配布する。
こうした動きに対し「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」が3月23日に同市内で「おかあさ~ん夢洲だいじょうぶ?」と題する集会を開催。防災問題について桜田照雄・阪南大学教授が、安全問題について藤永のぶよ・おおさか市民ネットワーク代表が報告した。
桜田教授は大阪湾は活断層が取り囲む「地震の巣」になっていると説明。中でも大阪湾の西側を縦断する大阪湾断層帯が動くと、南海トラフ地震を上回る津波が約15分後に大阪府の沿岸に到達するとの研究結果があることを紹介した。ところが夢洲には避難場所も避難計画もない。避難道路は夢咲トンネルと夢舞大橋の2ルートしかなく、液状化などで不通になると逃げ場がなくなる。「開催中に地震は起こらないだろうという希望的観測があるだけだ」と批判する。
メタンガス流出への懸念
夢洲はどんな島なのか。西側の1区は焼却灰など、中央南側の2区と北側の3区は浚渫土砂など、東側の4区は山土などで埋め立てている。2区と1区の約半分が万博用地、3区がカジノIR(統合型リゾート)用地で、4区はコンテナヤードとして稼働している。
藤永代表は情報公開請求などで得た資料を基に、夢洲の産業廃棄物に残存する有害物質の問題として次の3点を指摘する。
①1区には土中にたまったメタンガスを抜くための管が79本立っており、そのうち万博用地内にある14本を延長移設するというが、その他の管から万博会場内にメタンガスが流れてくる心配はないか。
②1区の「底質ダイオキシン処理ヤード」に積まれていたPCB(ポリ塩化ビフェニル)汚泥を詰めた約1万袋を埋めて、その上を万博用の駐車場にする計画だが、安全性に問題はないか。
③2、3区の浚渫土砂の一部から総水銀2・4ppm(最終処分場排水基準の480倍)、PCB2・8ppm(同993倍)などが検出されているが、3区で始まっている液状化対策の掘削工事によって有害物質が飛散しないか。
このほか子どもの万博動員計画に反対する運動として「夢洲カジノを止める大阪府民の会」が「有害物質が埋まる万博へ子どもたちを招待しないでください!」と訴える署名運動を展開し、4月末に署名簿を吉村知事に提出する。同会では、各地域で小中学校の校長やPTA会長に夢洲の危険性を訴えて万博遠足を計画しないよう要請する行動を繰り広げていく。
一方、日本国際博覧会協会(万博協会)は昨年12月、防災基本計画(初版)を公表した。地震について、大阪市内を縦断する上町断層帯地震(最大震度6弱)と南海トラフ地震(同)を想定。夢洲の地盤の高さは11メートルあり、満潮時の津波予想高さ5・4メートルに対して5メートル以上嵩上げしている。液状化について、粘土質の浚渫土砂で埋め立てているので万博会場の大部分で発生しないと説明。避難については、夢咲トンネルと夢舞大橋が地震の規模によって一時通行止めになり、広域避難が必要な場合は万博協会から大阪府市や国に救助・協力を要請するとしている。
だが、この防災基本計画には有害物質についての記述はなく、筆者が万博協会に取材すると、「回答するのに時間がかかる」という。その後3月28日、万博の建設現場で溶接の火花がメタンガスに引火する爆発事故が起きた。
(『週刊金曜日』2024年4月12日号)