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玉城デニー沖縄県知事単独インタビュー 「沖縄を二度と戦場にしないために、ミサイル配備を許すことはできません」

渡瀬夏彦・ノンフィクションライター|2024年4月25日6:23PM

在京メディアの責任

──よくわかりました。それで、さる1月に沖縄国際大学で行なった講演の場でも、学生さんたちとのやりとりの中で、自衛隊ミサイル配備が進む状況に触れて「兵器の置かれた場所こそが狙われる危険性がある」という意味の発言をされたのですね。さて、沖縄が置かれた理不尽な状況が、「辺野古代執行」のみならず、あまりに深刻だと言わざるを得ませんが、わたし個人の実感としてはマスメディア、特に在京全国メディアの責任は重いと痛感します。マスメディアによる詳細な解説報道がまるで足りないために、たとえば辺野古新基地建設にしても、「国が決めたことだから仕方がないんでしょう。最高裁が沖縄県敗訴の判決を出したから、もう駄目なんでしょう」という短絡的な大雑把な結論を出してしまう人が驚くほど多い。そのことを、つまりマスメディアへの注文を、いちライターのわたしなどが言うよりデニー知事ご自身がストレートに公言されるほうがよいのではないか。もうそのような段階に来ているのではないかと思います。

「県政記者クラブにいる全国紙の記者さんにはわたしから、沖縄の現状をどう伝えるか、あなたたちの責任が問われていると思いますよ、と問いかける場面もあります。そして理解してくれる記者さんがいるのも事実です。しかし、いざ物事の本質に触れる記事を書こうとすると、会社の上のほうから、そんな記事はいらない、読者は読まないと言われてしまう。オフレコを前提なので詳しいことは控えますが、そのような社の内情を教えてくれる記者さんもいるぐらいです。いずれにせよ結果的に、肝心な部分の検証が足りないまま、最高裁で沖縄県が負けた、工事が進むことになった、といった記事ばかりが目立つようになっています。本当は、沖縄県が真剣に訴えていることに対して、はたして司法はちゃんと取り合ってくれているのか、ときちんと書いてほしいのです。本来、メディアはそこで権力と戦うべきなのに、極端に言うと『沖縄県の負け』しか書かないようになってしまっていますね」

──そういうメディアの態度が、ますます全国の人に誤解を与えます。本当にメディアの罪は重い。

「一方、地方紙の社説などを読むと、沖縄県の主張をきちんと理解した上で書いてくれているな、頑張ってくれているな、と思うことが結構あります。希望がないわけではありません」

──やはり、つくづく「全国メディア」の責任は重大だと思います。一方、メディアの責任を問えばそれでよいわけではありませんね。コロナ禍明けから、デニー知事は全国トークキャラバン、シンポジウム、若者たちとのワークショップなどなど、積極的に、元来のデニー知事の強みそのものであるところのコミュニケーション力の豊かさを発揮しておられますね。

「昨年8月の名護市と12月の那覇市で行なった基地問題に関する若い世代とのワークショップでは、賛成・反対の立場で議論を戦わせるのではなく、まずは相手の考えを尊重して耳を傾けることから始めようという趣旨で取り組みました。最初は知らないことが多くても、まず事実を学んで、臆することなく自分の考えを言い合える空気をみんなで創っていく。貴重な取り組みだったと感じています」

──今後の知事の動きにますます注目したいと思います。そこで、最後になりましたが、アジアの平和構築のためのいわゆる自治体外交、地域外交の今後の可能性、展望について教えてください。

「はい。地域外交室において、沖縄県地域外交基本方針を今年度いっぱいでまとめます。このセクションを4月からは地域外交課に昇格させて、ますます積極的に取り組んでいくつもりです。令和6年度からは自治体外交に取り組む知事としてのわたしの動きも、さらに目に見える形で理解していただけるようになるのではないか、と思います。ご期待ください」

──もちろん期待を込めて、デニーさんらしい、寛容性と包摂性豊かな、しなやかな「平和外交」の進展を見守りたいと思います。

信念を語り続けて

 玉城デニー知事の長所、強みはくどいようだが、コミュニケーション能力の豊かさにある。根底には、若いころからラジオパーソナリティなどを務めて「コミュニケーションのプロ」として培ってきた能力に恵まれている、という点もあろうが、やはりその出自を含めて、多様な人びとが寛容性に富んだ関係を構築しながら、平和に共存していくことの大切さを、肌感覚で知っている政治家の強み、といってよいのではないだろうか。

2023年11月23日、沖縄・那覇市であった「県民平和大集会」で玉城知事は「なぜ日本政府は、この沖縄の不条理に正面から向き合おうとしないのか。その不条理が存在する限り、私たち沖縄県民はこれからも絶対にひるむことなく行動し、平和のための声を上げ続けていこうではありませんか」と呼びかけた。(撮影/伊田浩之)

 だから、これからどんな過酷な状況にあっても、持ち前の笑顔で県民や全国の人の輪の中に入っていき、あるいはアジア諸国の人びとと交流を深めていき、信念を語り続ける政治家であってほしい。法令に縛られる行政マンのトップである前に、信頼と友好の絆を創り出す政治家であり続けてほしいと切に願う。

(『週刊金曜日』2024年3月1日号)

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