「戦争と侵略のレイシズム」崔善愛
崔善愛・『週刊金曜日』編集委員|2024年5月16日2:28PM
今年1月、外国にルーツがある3人が、警察官から「外国人ふう」という見た目によって職務質問を受けるのは人種差別であると、国、東京都、愛知県を提訴した。訴状で明らかにされた職務質問のマニュアルの一部に、こう書かれている。
「一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は、(略)必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底的した追及、所持品検査を行う」(原文ママ)
何度読み返しても戦慄と怒りを覚える。これがもし「一見して日本人と判明し、日本語を話す者は、必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底した追及、所持品検査を行う」と置き換えれば、警察にも人種差別される側の訴えが届くのか。
1965年、池上努・法務省入国管理局参事官(検事)が、『法的地位200の質問』でこう書いたことにも通じる。
「(外国人は)煮て食おうと焼いて食おうと自由」。この差別意識がおよそ60年たっても、いまだ生きている。
私の兄は学生時代、近くのコンビニに行った帰りに自転車がなくなっていたので、交番に被害届を出した。その際、外国人登録証明書を自宅に忘れていたことで、1日拘束された。後日電話で、「取り調べで恐ろしい目にあった」と話した。
実際、「恐ろしい」事件が起きている。
85年、兵庫県尼崎市に住む金成日さんは外国人登録法の指紋押捺を拒否して罰金3万円の略式命令を受けた。うち2万円を支払うが、残り1万円は抗議の意思表示だった。翌86年11月5日、彼は逮捕され、尼崎北署で信じがたいことがあった。金さんは、こう証言する。
「力ずくでやられることを覚悟はしていたものの、さすがに恐怖感がどっと湧いてくる。僕は立った状態で背後、両横から5人の署員によって押さえられ、まったく身動きできないようにされた。紙包みからとり出した器具が僕の右腕にとりつけられる」
金さんは拷問のような強制具に腕や指を無理やり固定されて十指の指紋を採られた。私も21歳のとき指紋押捺を拒否したので、まったく他人事とは思えない。
「国民」あるいは「日本人」には心優しい警察が、ひとたび「外国人」とわかれば牙をむく。戦争と侵略はレイシズムから始まる。職務質問のマニュアルには、その原型を見る気がしてならない。
(『週刊金曜日』2024年5月10日号)