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SRHRへのバックラッシュ激化 女性やLGBTQの分断を煽る攻撃に連帯して対抗
三浦美和子・「生活ニュースコモンズ」記者|2024年5月16日2:23PM
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR=性と生殖に関する健康と権利)の確立へのバックラッシュ(反動)が世界各地で起きている。日本では2023年6月のLGBT理解増進法施行を機に、性的マイノリティ、特にトランスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と性自認が異なる人)への憎悪を煽る言説がSNSを中心に激化し、ヘイトが社会を分断する状況が生まれている。
このような現状を把握し、バックラッシュの傾向と連帯の手立てを考えるイベントが公益財団法人ジョイセフ、国際家族計画連盟(IPPF)の主催で4月22日に東京都内で開かれ、SRHRの推進に携わる登壇者たちが語り合った。
包括的性教育(CSE)の推進に長く携わってきた田代美江子さん(埼玉大学副学長)は、2000年代の「性教育バッシング」と20年代以降の「包括的性教育バッシング」を比較。いずれも「ジェンダー平等やSRHRが大きく前進しようとするときに起こる」とし、政治的権力による攻撃、性教育実践やジェンダー平等を目指す人たちの分断を煽る攻撃という共通点があると指摘する。そして「時を超えて繰り返されるバッシングから確信するのは、まさにCSEが重要だということ。人権を基盤としたCSEは公正で思いやりのある社会の構築を担う人を育て、公正な社会をつくることにつながる」と訴えた。
松岡宗嗣さん(一般社団法人 fair 代表)は、理解増進法整備の議論が本格化した20年代以降、デマに基づくトランスジェンダーへのバッシングや「性自認」という概念への攻撃が、法案反対論の中心となっていったと説明する。
「フェミニストや右派ではない女性の中にもトランスジェンダーバッシングに加わっている人がいる。このような分断が生まれる背景にはジェンダー不平等な日本社会の現状とSRHRの視点の欠如があり、保守派への対抗とは異なるアプローチが必要」と分析。「トランスジェンダー女性とシスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と性自認が一致している)女性の安全と権利を守ることは矛盾せず、両立する。共通する社会構造を問題視して変えていく視点を強く持てば持つほど、すべての人のSRHRと人権を守るために手を取り合ってつながっていける」と強調した。
日本は「反動先進国」
高井ゆと里さん(群馬大学情報学部准教授、倫理学者)は「ジェンダー平等に対するバックラッシュは世界的に起きているが、中でも日本は『バックラッシュ先進国』。ジェンダー平等に対する世界に先駆けた攻撃を私たちは国政レベルではっきりと経験している」と皮肉を込めて解説。「日本では同性婚がまだできず、差別禁止法もなく、性別承認法も非人道的なもののままになっている。これに対して昨今の司法は『同性婚ができないのは憲法違反』『トランスジェンダーの性別変更はもっと要件を緩和しなければいけない』と非常に積極的な姿勢を見せている。市民の認知も高まっている。そのような司法の積極的な態度や市民の認知が進むにつれて、政治的なバックラッシュが激化している」と述べた。
そして、日本で起きていることはジェンダー平等やLGBTQへの「バックラッシュ」どころか、前に進ませまいとする「先回り攻撃」だと批判。「20年前から続く保守派の反動勢力と、LGBTQに対して敵対的な一部のフェミニストが合流するという奇妙な事態が出現し、嘆かわしい」としつつ、「それでも希望は失っていない。優生保護法のような悪法と向き合ってこの国のSRHRを獲得しようとしてきた人たちとLGBTQコミュニティは連帯して進もうと思う」と前向きな姿勢を見せた。
IPPFのアルバロ・ベルメホ事務局長は「グローバルな調査研究により、分断を望む勢力の資金源やシンクタンクは同じであることがわかっている。このような勢力の意図は社会を分断させ、国の役割を縮小させ、もっといえば欧州連合などの規範的な枠組みを分断させることにある」と指摘。「LGBTQなどへの攻撃の根底には何があるのかを常に念頭に置いて連帯し、対応していこう。私たちはずっと闘い続け、勝っていかなければならない」と訴えた。
(『週刊金曜日』2024年5月10日号)